国土構造の変化と地域づくり

情報革命で大きく転換する日本社会。地方圏は自らの選択と戦略によって新たな時代の地域づくりを推進すべきだ。

戸所 隆 (高崎経済大学地域政策学部教授、文学博士)

戸所 隆(とどころ たかし)
写真:戸所隆

高崎経済大学地域政策学部教授、文学博士

昭和23(1948)年群馬県生まれ。立命館大学大学院修士課程(地理学専攻)修了後、文学部地理学科助手として同大学に勤務。助教授を経て平成元(1989)年に立命館大学教授に就任。平成8(1996)年より現職。上越市創造行政研究所長も務めている。専門は都市地理学、商業地理学、国土構造論。
経済審議会、国会等移転審議会等の専門委員を歴任。また関西や群馬県を中心に数多くのまちづくりや地域振興計画に携わっている。主な著書に「都市空間の立体化」(日本都市学会賞受賞)、「地域政策学入門」「地域主権への市町村合併」等がある。

「情報革命」による時代の大転換期
新たな国土づくりと地域づくりが必要

日本は今、非常に大きな変革の時代を迎えている。人口増加に支えられた経済成長の時代が終焉し、人口減少というこれまで経験したことのない環境下で経済政策や地域政策を模索していかなければならない。そのためには、まずは日本を取り巻く社会や時代の動向をじっくりと見据え、次代の国土構造や地域づくりのあり方を考える必要がある。そして経済力や国際競争力があるうちに新しい日本を形作っていかなければならない。

地理学では人類の歴史を3つの時代に区分している。一つ目は「農業革命」によってもたらされた時代で、それまでの混沌とした狩猟採集社会から、定住や集住が進み、農業を軸にした秩序ある社会が形成された。

次に来たのが「産業革命」で、それまでの「体力(人力)」に代わる「動力(内燃機関)」の開発によって機械化や工業化が進行。産業の中心は農業から工業へとシフトし、都市への人口集中や交易等で人の移動が活発化した。そして国家に代わって企業という組織が成長し力を発揮した。日本では明治時代から1980年代までのおよそ100年がこの時代に相当する。

そして今、直面しているのが「情報革命」だ。産業革命時代を「内燃機関による『体力の機械化』」がリードしたように、「人工知能による『知力の機械化』」が始まり、工業化社会から知識情報社会への移行が進行している。

図1 産業革命から情報革命へ

明治から1980年代:産業革命
内燃機関(鉄道・ブルドーザー)
体力の機械化
組織力を優先する社会
工業化社会(生産者の論理)
富の源泉:土地・資本・動力

時代の変化 技術革新

1980年代から今日:情報革命
人工知能(コンピュータ・ロボット)
知力の機械化
個人を優先する社会
知識情報社会(消費者の論理)
富の源泉:知力・知恵・情報

(戸所作成資料)

1980年代に始まった情報革命によって、日本そして世界は価値観や社会システム、社会構造など、様々な場面でこれまでとは異なる仕組みを形成していくことが求められている。

例えば、産業革命時代の富の源泉が「土地・資本・動力」だったものが、情報革命時代には「知力・知恵・情報」に変わる。それに伴い企業のような組織力よりも、知力や情報を持つ個人が優先される社会へと移行していく。

またこれまでは生産や経済活動のために工場や企業等が立地する拠点地域(例えば都市や工業地帯)に人口が集中したが、これからは情報インフラさえ確保されていれば、必ずしも一箇所に集まる必要性はなくなる。世界中に多様で多層的な水平ネットワークが形成され、そのネットワークが生産や経済、文化活動等の拠点として機能する。

家族形態も産業革命時代の「核家族化」がさらに進行し「個人」が中心の家族関係が生まれ、雇用関係も「終身雇用や年功序列」から「転職の活発化や能力主義」へと移行していく。

時代や社会の変化に対応して、官の役割や国土政策、地域政策も変わらなければならない。日本は工業化社会の時代には産業振興・経済成長の戦略に基づいて、農村から都市への人口移動や核家族化が進行した。それに対応して国土計画や都市政策が進められ、大きな成功を収めた。今まさに進行している知識情報社会への移行に関しても、時代の大転換の行方を見据えてそれに対応する新しい国土づくりや地域づくりが求められている。

図2 時代の変化と地域・社会構造の関係

時代区分 農業革命時代
第一の波(農業化)
産業革命時代
第二の波(工業化)
情報革命時代
第三の波(情報化)
基本理念 政治中心(平等) 経済中心(効率) 文化(自己実現)・政治・経済との交流、自由
都市間の関係 分散型
孤立・主従
集中型
階層ネットワーク
集中と分散
水平ネットワーク
土地利用の特徴 定住化 都市集中 大都市化と分都市化
交通機関 徒歩中心 鉄道・自動車・航空機 高速交通化・IT(空間の克服)
地域社会性 地域内の安定 地域性の喪失 ボーダレス化、自立・個性化
富の源泉 体力・土地 土地・資本・動力 知力・知恵・情報
首都文化の特徴 京都
伝統(農業)文化
東京
現代(工業)文化
新都市
未来(情報)文化
官の役割 統治 規格・制度の決定・業界指導 ルール策定・維持、事故処理
家族の形態 大家族 核家族 ポスト核家族(個人中心)
雇用関係 服従・男性中心 長期継続雇用・年功賃金・縦型社会・男女役割分担 転職・生涯現役型雇用・能力賃金・横型社会・男女共同参画

(戸所作成資料)

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