国土学からみた北陸の地域づくり(下)

国際競争力を維持・向上するためには。次代をみすえた社会資本の整備と地域間連携の取り組みが欠かせない

大石 久和 (財団法人国土技術研究センター理事長)

大石 久和(おおいし ひさかず)
写真:大石久和

財団法人国土技術研究センター理事長

1945年兵庫県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、70年に建設省(現国土交通省)に入省。大臣官房技術審議官、道路局長、国土交通省技監などを歴任。

2004年7月より財団法人国土技術研究センター理事長。また、早稲田大学大学院公共経営研究科客員教授、東京大学大学院情報学環特任教授も兼務している。著書に『国土学事始め』(毎日新聞社出版)がある。

低迷する日本の国際競争力 
維持・向上には強力なインフラが必要

スイスのビジネススクール「IMD」が毎年発表している国際競争力ランキングというものがある。世界55の国と地域の各種データを基に国際競争力を計算し、順位をランキング形式で公表するものだ。

このランキングによると日本は1992(平成4)年までは1位をキープしていたものが、93年以降急速に順位を下げ、2002(平成14)年には30位とわずか10年で下位グループに転落している。その後ややもち直して回復の兆しを見せたものの、2007(平成19)年には24位と再び順位を下げている。ちなみにこのランキングでも中国の成長は目ざましく、2007年には15位で日本(24位)を上回っている。

図1 日本の国際競争力ランキングの推移

出典:IMDホームページ(http://www01.imd.ch/documents/wcc/content/overallgraph.pdf)他

図2 2007年のランキング

順位 国名・地域名
1位 アメリカ(1)
2位 シンガポール(3)
3位 香港(2)
4位 ルクセンブルク(9)
5位 デンマーク(5)
6位 スイス(8)
7位 アイスランド(4)
8位 オランダ(15)
9位 スウェーデン(14)
10位 カナダ(7)
15位 中国(18)
24位 日本(16)

※()内は前年順位

日本人が怠け者になったというわけではない。日本では週に50時間以上働いている労働者が28%もおり、これはアメリカ(20%)やイギリス(16%)を上回り主要国トップの比率だ。つまり日本人の労働時間は主要国の中でもっとも長いということを示している。

日本人はあくまでも勤勉に働いている。しかしその労働が生産性や国際協力の向上にうまく結びついていないという厳しい現実がある。

資源に乏しく国土も狭い日本は、明治以降国を挙げて工業化を推し進め、日本製品を輸出することで経済成長を実現した。他国の製品よりも低価格で高性能な製品を開発・生産し世界市場に送り出し、市場で選ばれる( = 競争に勝つ)ことで、国民生活は豊かになり経済大国の地位を確立してきたのだ。

その構造は今も変わっておらず、日本は世界市場における様々な競争を勝ち抜き続けなければ、現在の生活水準や国力を維持できない。世界との競争力を維持・向上し続けることは国是といっても過言ではないだろう。

世界市場における競争の中心にいるのは企業である。世界中の企業が競争力を高めるために商品開発に取り組んでいる。また意思決定の迅速化や生産工程の効率化など、コスト削減に向けての合理化努力に取り組んでいる。しかし国際競争力を高める上で個々の企業努力だけでは実現できない分野がある。それは道路や空港・港湾、また情報通信環境等の社会資本やインフラストラクチャーと呼ばれる分野だ。

例えば空港や港湾、道路が整備されていれば物流コストは安くなり競争力は高まる。また情報通信環境が整っていないと世界の国々に遅れをとるし、海外からの投資も期待できない。さらに治山や治水などによる安全確保ができていなければ生産活動や経済活動は安定しない。規制緩和や知的所有権の保護などの制度や社会システムもこれからの社会における重要なインフラとなるものだ。

こうした社会資本やインフラストラクチャーは個々の企業の努力や競争力の向上を支えるものだ。そして同時に国民生活を支え、安全で快適な社会のために欠かせないものでもある。社会を支える国民共有の財産として、一企業が取り組むのではなく、国の戦略に基づいて着実に整備していく必要がある。それこそが国という「公(おおやけ)」の役割にほかならない。

低迷する日本が再び活力を取り戻し、さらに豊かな国づくりを進めていくためには国際競争力を高めるための強力なインフラ整備の戦略と取り組みが欠かせない。

ページの先頭に戻る

北陸の視座バックナンバー