編集後記

一昨年、アメリカの金融危機に端を発した世界的不況からの出口がなかなか見えない。経済社会の疲弊は地方だけの問題ではなく、今や東京都心に立地する百貨店までもが閉店に追い込まれる時代である。しかしそれは、我々が時代の転換点に立っていることの現れではないだろうか。21世紀を迎えて10年。ようやく20世紀型の社会システムと別れを告げ、21世紀型の新たな社会システムの構築を迫られている。もはやこれまでの常識では通用しなくなった。

「なぜ」を5回繰り返す“カイゼン”生産方式で世界最大にまで登り詰めたトヨタ自動車が、アメリカにおけるリコール問題で大きく揺れた。皮肉にも世界に誇るその品質でつまずいた格好だ。自動車や電機など日本を支えてきた産業が今、韓国企業などの台頭により世界市場で苦戦、戦略の転換を迫られている。世界市場はかつての先進国から中国・インドへと拡大し、韓国勢などとの激しい価格競争を繰り広げる。品質や価格では差がつかず、一層ブランド力の重みが増す。新たな日本ブランドの構築。そのヒントは、日本の美と伝統、匠の技術など歴史や文化、自然の中にあると嶌氏は訴える。

建設業もこれまでの常識が通用しない環境変化にさらされている。日本の建設投資(政府と民間の合計)は1992年度の約84兆円をピークに次第に減少。09年度は約47兆円の見通しである。一方、建設業者数のピークは99年3月の約60万社。08年3月には約51万社へと減少したが、投資額の減少率44%に対し15%の減少とその幅は小さい。建設業が本業だけで生き残っていくのは大変困難である。

このような状況下、建設業者には農業や環境、福祉などに活路を求める新分野への進出の動きが広がる。各地で建設業の新分野進出を支援している米田雅子・慶応大学教授は、「農業や林業などと“複業化”していくことが地方の業者にとっては重要。日本社会の構造変化は従来型の公共事業を縮小させる一方で、新たなビジネス機会も生んでいる」という。ただし地域に目を向け、地域の産業や社会の発展に寄与する、地域に立脚したビジネスであること。そこに建設業の新分野進出への鍵があると指摘する。

地方では、建設業が雇用を下支えしてきた(新潟県の場合、建設業は全産業従事者の11%:08年)。公共事業が地方の生命線となって久しい。90年代後半から日本経済の体質変化が進み、かつてのように、公共事業は大きな経済効果を生まなくなってきた。公共事業自体にも「新設」から「維持補修」への政策転換が求められている。日本・地域・産業の再生にはこれからも様々な転換が迫られることだろう。まずは自分たちの足下を見直すことが再生への出発点かもしれない。

(北陸の視座・編集事務局)

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