地方の鉄道が、近年次々と廃止されている。鉄道の廃止は、利用者の減少や代替交通機関の台頭・普及、貨物なら荷主企業の撤退や主幹産業の低迷などを理由にこれまでも行われてきたことであり、取り立てて珍しいことではない。ただ、このところの路線の廃止には、平成12年3月の鉄道事業法改正が関係している。それまで、鉄道事業は市場への新規参入が厳しく制限された規制産業であり、国の需給調整の下、黒字路線での超過利潤を赤字路線の運営の原資とすることを事業者に課す、つまり内部補助で路線全体の維持を図っていた。しかし、この改正では、事業への参入・撤退(廃止)が、従前の許可制から届け出制へと変更され、路線廃止はその1年前までに届け出を行うことで、事業者が自動的に実行できることとなったのである。
実際に、路線の廃止は増加傾向にあるが、地方の中小の鉄道会社の路線に加え、近年は大都市の外縁部に位置する大手鉄道会社の路線も見受けられる。内部補助で維持しきれなくなった赤字路線の廃止が、一気に進んだことが分かる(図1)。また、直近は特に廃止延長(キロ数)が長く、平成17年は3路線で約116km、平成18年は同じく3路線で約167kmが廃止されている。「のと鉄道」や「北海道ちほく高原鉄道」といった、一地域の局地的な輸送にとどまらず、地域間の広域輸送をも担っていた比較的長距離の路線の廃止がその要因である(図2)。
廃止日 | 都道府県 | 事業者 | 路線名 | キロ数 | |
---|---|---|---|---|---|
平成7年 | 9.4 | 北海道 | JR北海道 | 深名線 | 121.8 |
平成9年 | 4.1 | 山口 | JR西日本 | 美祢線(南大嶺〜大嶺) | 2.8 |
5.6 | 青森 | 南部縦貫鉄道 | 南部縦貫鉄道線(休止、2002年廃止) | 20.9 | |
平成10年 | 4.1 | 青森 | 弘南鉄道 | 黒石線 | 6.2 |
平成11年 | 4.1 | 岐阜 | 名古屋鉄道 | 美濃町線(関〜美濃) | 6.0 |
4.5 | 新潟 | 新潟交通 | 新潟交通線(東関屋〜月潟) | 21.6 | |
10.4 | 新潟 | 蒲原鉄道 | 蒲原鉄道線(五泉〜村松) | 4.2 | |
平成12年 | 11.26 | 福岡 | 西日本鉄道 | 北九州線(黒崎駅前〜折尾) | 5.0 |
平成13年 | 4.1 | 石川 | のと鉄道・JR西日本 | 七尾線(穴水〜輪島) | 20.4 |
青森 | 下北交通 | 大畑線 | 18.0 | ||
10.1 | 岐阜 | 名古屋鉄道 | 揖斐線(黒野〜本揖斐) | 5.6 | |
谷汲線 | 11.2 | ||||
八百津線 | 7.3 | ||||
竹鼻線(江吉良〜大須) | 6.7 | ||||
平成14年 | 4.1 | 長野 | 長野電鉄 | 河東線(信州中野〜木島) | 12.9 |
5.26 | 和歌山 | 南海電鉄・和歌山県 | 和歌山港線(和歌山港〜水軒) | 2.6 | |
10.21 | 福井 | 京福電鉄 | 永平寺線 | 6.2 | |
平成15年 | 1.1 | 和歌山 | 有田鉄道 | 有田鉄道線 | 5.6 |
12.1 | 広島 | JR西日本 | 可部線(可部〜三段峡) | 46.2 | |
平成16年 | 4.1 | 愛知 | 名古屋鉄道 | 三河線(碧南〜吉良吉田、猿投〜西中金) | 25.0 |
平成17年 | 4.1 | 岐阜 | 名古屋鉄道 | 揖斐線(忠節〜黒野) | 12.7 |
岐阜市内線(岐阜駅前〜忠節) | 3.7 | ||||
美濃町線(徹明町〜関) | 18.8 | ||||
田神線 | 1.4 | ||||
茨城 | 日立電鉄 | 日立電鉄線 | 18.1 | ||
石川 | のと鉄道 | 能登線(穴水〜蛸島) | 61.0 | ||
平成18年 | 4.21 | 北海道 | 北海道ちほく高原鉄道 | ふるさと銀河線 | 140.0 |
10.1 | 愛知 | 桃花台新交通 | 桃花台線 | 7.4 | |
12.1 | 岐阜 富山 |
神岡鉄道 | 神岡鉄道線 | 19.9 | |
平成19年 | 4.1 | 宮城 | くりはら田園鉄道 | くりはら田園鉄道線 | 25.7 |
茨城 | 鹿島鉄道 | 鹿島鉄道線 | 27.2 | ||
福岡 | 西日本鉄道 | 宮地岳線(西鉄新宮〜津屋崎) | 9.9 | ||
9.6 | 宮崎 | 高千穂鉄道 | 高千穂線(延岡〜槇峰) | 29.1 | |
平成20年 | 4.1 | 兵庫 | 三木鉄道 | 三木線 | 6.6 |
長崎 | 島原鉄道 | 島原鉄道線(島原外港〜加津佐) | 35.3 |
貨物線、観光地へ通じる鋼索線(ケーブルカー)、経営移管、並行路線新設に伴う廃止等は除く。
(「鉄道要覧」等から編集部作成)
図2 鉄道・軌道の廃止(事業者数とキロ数)
貨物線、観光地へ通じる鋼索線(ケーブルカー)、経営移管、並行路線新設に伴う廃止は除く。
(「鉄道要覧」等から編集部作成)
もちろん、一般的に鉄道の廃止は地域に与える影響が大きいので、事前周知は当然必要であるし、関係機関との調整を経た上で行われることとなるが、路線廃止のハードルが低くなったのは事実である。近年、路線廃止が急増しているのは、不況や少子高齢化、自動車の増加等による利用者の減少、さらには自然災害の発生等の理由に加え、鉄道事業法の改正が拍車をかけたものと考えられる。
北陸では、鉄道事業法改正前に、路線縮小の上経営を続けていた「新潟交通」「蒲原鉄道」が相次いで廃止され、新潟県の私鉄が全廃。「のと鉄道」も2度にわたる路線廃止が行われ、石川県は奥能登から鉄道が消えた。福井県の「京福電鉄永平寺線」は正面衝突事故後の経営移管時に廃止、富山県の「神岡鉄道」は主力の貨物輸送のトラック転換が廃止の引き金となった。