さらに、近年では、公から民へ提供するという図式が一般的であった公共交通の各主体の関係に変化が生じている。
例えば、受益者たる利用者が局地的でごく限られている路線バスの場合、関係者が一堂に会し話し合っていくことが可能だ。新潟県中越地震の被災地である長岡市山古志地区では、廃止された路線バスの代替としてコミュニティバスの運行が試みられているが、今年7月からはNPOが運行主体となる計画である。この構想においては、長岡市と住民、NPOといった地域の人たちが集まって生活交通協議会を設置し、検討を重ねてきたものであるが、地域に何が必要か、一番良く知っているのは地域住民であるからこそできる、こんな住民主体の合意形成のプロセスが定着していくのではないだろうか。
鉄道の運営でも、同じような動きがある。北陸の事例ではないが、かつて南海電気鉄道の路線だった貴志川線を引き継ぎ、列車運行を行っている和歌山電鐵だ。南海電鉄が2005年9月限りで同線からの撤退を表明したことから、和歌山県、和歌山市、貴志川町(現紀の川市)が存続のため支援することで合意し、新たな経営主体を公募した。引き受け手となったのは岡山市で路面電車を運行する岡山電気軌道で、100%子会社として設立されたのが和歌山電鐵である。
図3 和歌山電鐵・貴志川線における公的部門の費用負担内訳
和歌山県 | 和歌山市・貴志川町 |
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和歌山県と和歌山市・貴志川町の新会社への支援スキームも用意されたが、この鉄道で特徴的なのは、経営やサービス内容等についてアイディアを出し合う場として「貴志川線運営委員会」を設立し、検討を行ってきた点である。同委員会は、行政の担当者や商工会、同社役員のほか、住民代表や沿線3高校の生徒と教員といった実に多様な主体が参画するものであり、地域のニーズを的確に事業運営に反映させるために実施しているものである。
地域住民にとって公共交通は与えられるものであり、自ら支えていくものという発想は希薄だったが、いずれも住民や利用者が直接経営に参加していく、いわば「新たな公」の概念を用いた事例といえる。さらに、例えば地域住民が直接出資を行ったりして公共交通の運営に携わることで、当事者意識を高めてもらうことも可能になると考えられる。
この考え方を発展させると、やがては責任と費用負担を明確にした上で、市場原理導入の可能性が出てくるのではないかと思われる。例えば、ある鉄道会社が行政から補助金を給付されているケースがあったとき、競争入札を実施してより補助金が少なくて済む事業者に経営を委託する方式が考えられるし、最終的には補助金に頼らない完全民営化も視野に入ってくる。