地域コミュニティと公共交通

公共交通のあり方は地域全体で考えるべき問題。一般市民の意識啓発と財政支援の制度構築が、地域の足を守るために今求められている。

佐藤 信之(評論家、亜細亜大学講師(交通政策論))

緒に就いた公共交通の支援体制
先行する富山市は、串と団子の富山型を提唱

こうして、公共交通を維持し、さらに発展させていこうとする動きは、ようやく本格化したところである。ただし、その動きを今後も高めていくためには、公共部門による費用面の支援体制もまた不可欠である。

2007年7月の社会資本整備審議会の答申を受け、行政が行う交通整備に対する大きなビジョン、いわば都市の将来像である「都市・地域総合交通戦略」が国土交通省によって策定された。公共交通のほか、都市や地域のインフラ施設全般の指針を示したものであるが、そのうち公共交通に関してつくられたのが「地域公共交通総合連携計画」であり、その根拠となっているのが「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」である。

都市の構造を考えると、一極集中型が社会資本整備にしても行政サービスを行うにしても、非常にコストが安く済む。ところが、経済発展の過程で、都心部の地価上昇や道路渋滞、公共交通の混雑の常態化といった問題が発生し、都市の中心部が必ずしも生活しやすい場所ではなくなっていき、モータリゼーションの進行が拡散型の都市構造への変化を後押しした。その反省から、再び都市構造を拡散型から集約型に戻そうとしているのがその要旨である。

都市内ではLRTやBRT(バス・ラピッド・トランジット)、コミュニティバスといった交通手段を導入し、交通結節点を整備することで、自家用車に頼らない生活を実現していこうとすることや、公共部門が都市交通部分の整備を行い、市街地整備や周辺民間用地の整備等は事業主体を民間にシフトしていこうとする考え方が、都市・地域総合交通戦略によって具現化されている。

図4 都市・地域総合交通戦略

図

(国土交通省資料)

この実施にあたっては、自治体、交通事業者、それから市民の三者をコアとした地域協議会を組織し地域公共交通総合連携計画を策定する。その結果、公共交通に関する意思決定のプロセスに住民が参加することや、合意事項に対して事業者が履行義務を負うこととなるが、これこそが地域公共交通の活性化および再生に関する法律の骨子である。そして、事業者が合意事項を実行するために、法体系の整備と財政支援制度の拡充が図られており、具体的に用意されているのが、軌道運送高度化事業、道路運送高度化事業、立法化中の鉄道事業高度化事業といった国の制度で、インフラ部分の経費を公共側が負担することを通じ支援を行うものである。

こうした制度体制を駆使し地域づくりを進めているのが、富山市である。都市の構造は、一極集中で核となる都心部がありその周囲には居住エリアが広がるパターンとなるのが一般的だし、コスト面でも優位であることは前述した。ところが、この形は都心部に経済活動が過度に集中し、周辺部にある近郊都市や集落といった核となる地区が荒廃してしまう恐れがある。そのため、富山型の総合交通戦略では、公共交通軸上に居住、商業、業務等の徒歩圏内の核を存置し、多核型の都市づくりを進めようとするものである。

同時に、市中心部では人の流れを街に生み出し、周辺地域の面的な環境整備を通じて、市街地の再活性化を図ろうとする計画が動き出したところである。富山地方鉄道の路面電車環状化計画がそれであり、丸の内と西町の間、0.94キロに新たに軌道を敷設し1日79本の列車を運行する構想で、去る2月に軌道運送高度化事業の第1号認定を受け、来年12月の完成を予定している。

図5 総合交通戦略 一般型と富山型

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(国土交通省資料)

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