地域コミュニティと公共交通

公共交通のあり方は地域全体で考えるべき問題。一般市民の意識啓発と財政支援の制度構築が、地域の足を守るために今求められている。

佐藤 信之(評論家、亜細亜大学講師(交通政策論))

鉄道維持の視点と制度的枠組み
線路施設の保有と列車運行の分離

公共交通を利用する際、私たちは輸送サービスの代価として、運賃・料金を支払っており、通常の商品やサービスと同様に値段がある。つまり、市場メカニズムを通じてサービスの提供が行われているということだ。

ただ、公共交通は、公共財と同様に公共性を持つ。たとえば、先に公共財として例示した国防のケースを取り上げると、弾薬や兵員を輸送するのに鉄道は重要な役割を持つ。そのような公共性ゆえに、公共部門がその運営に介入する必要があった。そのようにして鉄道の場合は、昔から、新たに鉄道路線が建設される場合、国が直接建設したり公的助成がなされたりしてきた。

鉄道の建設・維持には広範囲に公的助成が行われてきたが、この分野で近年注目されているのが「上下分離」の手法である。線路やそれに付随する施設等のインフラ部分を保有する主体と列車を運行する主体を別々とするもので、前者は自治体が、後者は民間事業者が担うケースが多くなってきた。鉄道事業においては、第1種から第3種までの事業区分がなされており、上下分離では、第3種ないし第1種鉄道事業者が保有する施設を、第2種鉄道事業者が使用料を支払って使用する。

鉄道事業の種類

第1種鉄道事業
自らが敷設する線路を使用して鉄道運送を行う事業
第2種鉄道事業
他人が所有する線路を使用して鉄道運送を行う事業
第3種鉄道事業
線路を第1種鉄道事業者に譲渡する目的で敷設する事業及び線路を敷設して第2種鉄道事業者に専ら使用させる事業

(鉄道事業法による)

上下分離が優れている点は、費用負担をいずれの主体が行うのか、責任の所在を明確にできることである。列車運行を行う事業者は、線路施設の建設・所有については直接責任を負わないので、その維持・更新コストや固定資産税の支払いは別に契約で取り決めがなされ、場合によっては、自治体がインフラ部分の保守・管理費を支出することで運行側の負担を軽減する。この取り決めの中でどのようにリスク分担するのかを明記することで、事業の効率化が可能となる。近年、道路・空港・電力等の社会インフラの建設で行われているPFIと同様の考え方である。

そもそも、わが国の鉄道建設は地域間の均衡ある発展を旗印に、事業者には独占市場を与え需給調整規制を課し、採算部門の利益を不採算部門の運営に用いる内部補助が容認されてきた経緯がある。そのため、単独では収支均衡を達成し得ない路線が存在する。

ところが、2000年の鉄道事業法改正では、競争促進と効率化の視点からこの規制が大幅に緩和され、新規参入・撤退が事業者の判断で行えるようになった。その結果というと、内部補助で維持されてきた不採算路線の廃止(撤退)だけが目に付くことになってしまった。競争促進という視点からは、例えば、上下分離の手法で、列車運行主体が自由に参入可能(オープン・アクセス)な環境をつくり、競争原理の導入により良質で低廉なサービス提供を図ることができたかもしれない。制度として上下分離が可能となったものの競争の導入にはつながらなかったので、市場の効率化は自ずと限界があるということだ。ただし、日本でオープン・アクセスが相応しいのかどうかは疑問とする見解が多い。

また、事業体についても公共性を持つという特性から、純粋な民間事業者ではないケースが多い。それが、第三セクターという存在である。2004年時点とやや古い数値だが、わが国には9,947の第三セクター法人が存在し、その業務分野は「地域・都市開発」「観光・レジャー」「農林水産」「教育・文化」など多岐に渡っている。(総務省「第三セクター等の状況に関する調査結果」2005年3月)。

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