地域に相応しい、そして利用者ニーズに見合った公共交通をつくるため、公共交通を支える主体は住民自身であるという認識が必要である。自らの利害に直接関わることについては、自らが主体的にそれに関与したり、支援したりしていく発想が大切だと考える。公共交通は基本的人権に関わる重要な公共性を持っているのであり、その経営の責任を鉄道会社やバス会社だけに負わせるのではなく、住民一人ひとりが供給主体の一員として、当事者意識を持ってリスクを分担することが必要である。
ただ、そんな動きが広まっているかといえば、なかなかそうはなっていないのが現実だ。
一つには、公共性を認めるものの、負担がセットになると地域全体の盛り上がりに欠けることや、多様な主体が関わるために連携がうまくいかないという状況がみられる。各地の鉄道維持のための活動では、公共性が認められて、合意形成が成った場合でも、鉄道事業者は頑張っているのだが、自治体や住民からはなかなか理解を示してもらえないケースがある。最期は、廃止やむなしという結論になってしまう。
そこで、まず地域コミュニティの主体である住民に責任を分担してもらうという手法が必要である。モビリティ維持のために公共交通を維持していくためには、住民にもサービスの受益者としてだけではなく、リスク・テーカーとなってもらうことが必要である。それは、強制的な税金を経由する場合もあるし、自発的な寄付金という場合もありうる。
そして、上下分離や法制度の枠組みの中では、自治体による財政支援が不可欠となるが、現状では、国や地方公共団体は財政難で苦しんでいる。せっかく地域コミュニティで合意形成がなされても、財源をいかにして確保するかは合意事項を実現する上で大きな障害となる。
そこで、交通インフラの整備目的の基金を創設することを提案する。国や地方公共団体が毎年一般会計から資金を投入することとし、道州制の導入も視野に入れ「県地域交通施設整備基金」という形で複数の自治体で資金をプールする。そして、道路や鉄道・軌道の整備、あるいはバス事業の運営等のために補助財源として活用するという形だ。
地域住民の公共交通に対する認識の深度化と、財源の確保。これからの公共交通の成否はこの2点にかかっている。