新潟日報
(平成19年6月14日)
近年は公共交通の維持・確保が地方自治体にとって大きな課題となっているが、それまでの公共交通は、公共といいながら民間事業者が独立採算を基本に運営してきたものである。バスでいえば、バス事業者がルートもダイヤも運賃も決めていた。地方自治体がその計画・運行に関与していることは少なく、路線存続のために補助金を支出することが主な役割であったと言える。一方、地域住民にとっても、そこにもともとからバスが走っていた程度の認識であり、なくなることが決まると存続を陳情する程度であった。
旧山古志村に話をもどせば、バス事業者の廃止の意向に対し、長岡市は赤字分の全額負担を持ちかけて存続しようと試み、地域住民もバス事業者へ陳情に訪れている。地震で大きな被害を受けた旧山古志村ということで、新聞等にも大きく報道されたが、平成19年6月には廃止届けが提出され、6ヶ月後に路線バスは廃止された。
今回のケースでは、もともと震災後の路線バスは休止状態であり、路線を存続させることは、「維持」でなく「再開」を意味していた。とはいえ、行政は(これまでの路線バス存続の仕組みでいえば)最大限の支援を表明し、住民の陳情はマスコミの後盾を得たものであった。しかし、結果として路線バスは廃止された。つまり、これまでのバス事業者が計画・運営・運行をすべて行い、行政は財政支援をするという仕組みでは、これからの中山間地域の生活の足を維持していくことは難しいことを示している。
相次ぐバス事業者の不採算路線からの撤退を受け、地域の生活の足としての公共交通をどう維持していくかが、全国の地方自治体にとって大きな課題となっており、自治体が事業者選定や路線・ダイヤ設定に主体的に関わるようになってきた。前述したとおりコミュニティバスを導入している自治体は多く、その形態もさまざまなものが登場している。
もともと利用者の少ない地域に導入されることが多いため、どれだけ地域住民の細かいニーズに適応したサービスが提供できるかが鍵となるが、自治体主導による公共交通確保の場合、ともすると住民のニーズと合致しない路線形態になることが多い。
現在では、市町村合併により、同一市町村内に多様な地域が混在するようになり、地域のニーズも多岐にわたる。地域住民のバスに対する当事者意識が低く、その計画を行政に任せるのであれば、地域の公共交通維持は補助金の大小により決まると言っても過言ではない。ひっ迫した財政状況を考えると、中山間地域の公共交通が、「公共だから行政がする」という仕組みで持続可能であるとは考えにくい。
今各地で、地域住民、NPO、企業等多様な主体が担っていく「新たな公」に基づく地域づくりが急速に進展している。地域や個人のニーズが多様化し、行政が提供する公平・平等なサービスと、民の市場原理という官民型社会システムでは対応できない分野がクローズアップされてきている。
公共交通の維持という分野もその一つである。表に示すように、地域住民やNPO、商店街組合等が、バス事業者や行政と協働して公共交通確保に取り組み成功している例も全国で見られるが、平成18年10月の道路運送法改正は、そうした時代の潮流を反映している。各地で「地域公共交通会議」が作られ、地方自治体が公共交通網整備に主体的に関わり、そこに交通事業者や地域住民、NPO等関係者が一体となって取り組んでいく仕組みができてきた。また、平成19年10月施行の「地域公共交通活性化及び再生に関する法律」においても、公共交通の改善・充実にむけた地域の取り組みに対する支援策が盛り込まれている。
地域の実情にあった公共交通を確保するためには、地域の住民が計画・運営と利用促進に参画することが必要であり、その仕組みも整いつつある。特に中山間地域においては、住民が参画する場面と頻度と深度をより大きくすることが、公共交通を持続可能にするために必要であると言える。
地域内で必要なサービスと、自ら何ができるのかを考え提案し、それを自治体が受けいれて人的・財政的に支援していく仕組みが大事になってくる。つまり、行政の支援があることを前提としながらも、地域住民自らの負担とサービス向上による支出拡大の関係を明確にすることで、地域のニーズとサービスの乖離を防ぎ、それが結果として中山間地域においては身の丈にあった公共交通となる。これが、中山間地域において公共交通を持続可能にするための方策である。
※関係者へのヒアリング調査より