山古志・太田地区での公共交通確保に向けた取り組みと検討内容を報告する。
長岡市山古志・太田地区は、長岡市の南東部の山間丘陵地に位置し、最大積雪が3mを超える豪雪地でもある。厳しい自然条件ゆえ、棚田、闘牛、錦鯉など固有の文化と生活スタイルを有した地域である。
平成16年10月23日に発生した中越地震の壊滅的被害によって、旧山古志村は全村避難、太田地区も多くの世帯が長期避難となった。
長岡市 | |||
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山古志地区 | 太田地区 | ||
世帯数 | 96,968 | 508 | 130 |
人口(人) | 281,406 | 1,438 | 308 |
高齢化率(%) | 19.5 | 34.6 | 36.6 |
集落数 | - | 14(大別すると5) | 3 |
面積(km2) | 841 | 13 | 40 |
世帯数、人口は平成20年2月1日現在の値(長岡市HPより)、
高齢化率は平成12年国勢調査、面積は平成17年新潟県統計年鑑による。
地区内の路線バスは、旧山古志村には3路線、太田地区には1路線があったが中越地震発生により旧山古志村内は休止、太田地区の1路線は大幅減便となった。復旧工事が終わり、多くの住民が戻った平成18年9月からは、新潟県中越大震災復興基金を用いたコミュニティバスが、山古志地区内の休止路線バスを引き継ぐ形で運行し、その後太田地区においても減便を補う形で運行した。平成19年6月15日にはバス事業者から廃止届けが提出され、6ヶ月後の12月15日に廃止となった。その後も復興基金を用いたコミュニティバスは引き続き運行しているが一時的な処置であり、バス事業者に代わる将来的な運行方法について考えていく必要があった。
(社)北陸建設弘済会では「北陸地域の活性化に関する研究助成事業」を行っているが、その一環として、北陸地域における課題に関してプロジェクトを立ち上げ共同研究者とともに調査研究を行う「プロジェクト助成研究会」を実施し、テーマの1つとして山古志・太田地区の公共交通のあり方について検討してきた(以下「研究会」と呼ぶ)。研究会では、まず当該地域の将来像の視点から以下のような共通認識が形成された。
現在、研究会の提案に賛同し山古志・太田地区生活交通の運営主体へなることを了承したNPO法人中越防災フロンティア、研究会の提案を支援する長岡市、地域の代表「山古志・太田地区生活交通協議会」(以下「協議会」)を開催している。
公共交通の計画において、地域特性を踏まえ実状にあったものとすることが重要なことは、全国共通である。では協議会において、この被災地域における現状をどう認識してスタートしたか記述しておく。
協議会の検討を経て、山古志・太田地区の公共交通は、平成20年7月からNPO法人中越防災フロンティアが最大5年の期間限定で運営することが決まった(名称「クローバーバス」の由来は後述)。その後は、地元の住民組織へ引き継ぐことが前提となっており、その組織づくりもNPOが行う。NPO法人中越防災フロンティアによる運営方針、運行計画及びスケジュールは次のとおりである。
出典:国土地理院「数値地図50000(地図画像)新潟」を利用して作成
※2008年3月当時の運行計画
運営方針、運行計画の概要について、それぞれの項目の狙いや計画ができるまでの検討内容についてまとめる。
NPO法人中越防災フロンティアの取り組みは、短期的には路線バスに代わる地域の足を確保することを目指すが、本来の目的はバスを核とした地域づくり・地域活性化である。研究会では、公共交通を使った地域の将来ビジョンである「クローバー・プロジェクト」を提案し、ダイヤ等詳細な運行計画は協議会や地域への説明を通じて決定することにしている。
今後、NPOによるバス運行を目指し、地域内の各集落で説明を行う際も、とかく時刻や便数といった各論になることが予想されるが、先ず理念と取り組みの意義について地域の理解を得、地域住民の全員参加(NPO会員に加入)を目指すこととしている。
当該地区においては、以下の理由から将来的には運営・運行を地域住民が自ら行うことが望ましいと考えている。
先行するNPOの役割は、『資金調達面も含め安定したクローバーバス運行』『地域に適合した運行形態・運行計画の模索』『引き継ぐべき住民組織づくり』『全員参加型NPOであることを活かした地域活性化事業の展開』などの地ならしである。
中越地震を契機に発足した組織。中越地震の被災地住民の生活再建を支援するとともに、地域の総合的な防災力の向上を目的として活動。
クローバーバスは、地域内の全世帯がNPOの会員になることを目指しており、以下の効果を期待している。