地域指標

中山間地域の持続可能な公共交通についての考察 長岡市山古志・太田地区における公共交通のあり方の検討をケーススタディとして

2008.3

北陸地域づくり研究所

3. 山古志・太田地区におけるコミュニティバス「クローバーバス」

山古志・太田地区での公共交通確保に向けた取り組みと検討内容を報告する。

1)地区の概要

長岡市山古志・太田地区は、長岡市の南東部の山間丘陵地に位置し、最大積雪が3mを超える豪雪地でもある。厳しい自然条件ゆえ、棚田、闘牛、錦鯉など固有の文化と生活スタイルを有した地域である。

平成16年10月23日に発生した中越地震の壊滅的被害によって、旧山古志村は全村避難、太田地区も多くの世帯が長期避難となった。

  長岡市  
山古志地区 太田地区
世帯数 96,968 508 130
人口(人) 281,406 1,438 308
高齢化率(%) 19.5 34.6 36.6
集落数 - 14(大別すると5) 3
面積(km2 841 13 40

世帯数、人口は平成20年2月1日現在の値(長岡市HPより)、
高齢化率は平成12年国勢調査、面積は平成17年新潟県統計年鑑による。

地区内の路線バスは、旧山古志村には3路線、太田地区には1路線があったが中越地震発生により旧山古志村内は休止、太田地区の1路線は大幅減便となった。復旧工事が終わり、多くの住民が戻った平成18年9月からは、新潟県中越大震災復興基金を用いたコミュニティバスが、山古志地区内の休止路線バスを引き継ぐ形で運行し、その後太田地区においても減便を補う形で運行した。平成19年6月15日にはバス事業者から廃止届けが提出され、6ヶ月後の12月15日に廃止となった。その後も復興基金を用いたコミュニティバスは引き続き運行しているが一時的な処置であり、バス事業者に代わる将来的な運行方法について考えていく必要があった。

2)検討の経緯

(社)北陸建設弘済会では「北陸地域の活性化に関する研究助成事業」を行っているが、その一環として、北陸地域における課題に関してプロジェクトを立ち上げ共同研究者とともに調査研究を行う「プロジェクト助成研究会」を実施し、テーマの1つとして山古志・太田地区の公共交通のあり方について検討してきた(以下「研究会」と呼ぶ)。研究会では、まず当該地域の将来像の視点から以下のような共通認識が形成された。

  • マイカーによる移動を行う人も、公共交通の問題は地域全体の問題だととらえる必要がある。
  • 交通政策という視点から、コミュニティ・生き甲斐の創出、総合的なまちづくり、地域の生活を考える。
  • 中山間地域と全国を一律に論じることはできない。山古志・太田地区にあった交通を柔軟に考える。
  • 山古志・太田地区における事例を、路線バスの廃止が相次ぐ全国の過疎地のモデルとしたい。
  • 「公共」の意味を問いただし、“持続可能”な公共交通とは、単に行政に頼ることではなく、住民が参画する身の丈にあった公共交通である、と伝えたい。
図

現在、研究会の提案に賛同し山古志・太田地区生活交通の運営主体へなることを了承したNPO法人中越防災フロンティア、研究会の提案を支援する長岡市、地域の代表「山古志・太田地区生活交通協議会」(以下「協議会」)を開催している。

3)地震がもたらしたもの

公共交通の計画において、地域特性を踏まえ実状にあったものとすることが重要なことは、全国共通である。では協議会において、この被災地域における現状をどう認識してスタートしたか記述しておく。

1. 路線バス休止・廃止の直接的原因
中越地震を機に山古志では路線バス休止、太田地区は大幅減便となり、地震から3年が経過した平成19年12月に廃止となっている。しかし、従来から赤字路線でありいずれ廃止対象となったことも想像できる。
2. 集落の人口減少・高齢化
山古志地区の人口は地震前と比較して約7割となっている。山を下りたのは若い世代が多く、高齢化率も約5%上昇し40%程度となっている。太田地区も同様の数値を示しており、高齢化、人口減少の傾向が急速に進んだことがわかる。将来の公共交通に対する不安は大きい。
3. 知名度が上昇。観光客も訪れる。
地震を機に特に山古志の知名度は上昇し、観光客、視察など交流人口は増えた。影響の大きさは不確定だが、協賛企業も得られやすいと考えられる。
4. 地域への思い、コミュニティが強くなった。
地震を経験し、それでも帰りたいといった人。地域への思いは強く、バスは地域全体・全員の問題であることへの理解は得られやすい。
5. 新しい取り組みをしようという気概がある
復旧・復興に外部からの大きな支援があった。中山間地域のモデルになるのなら頑張ろうという気概がある。

4)クローバーバスの運営方針と運行計画

協議会の検討を経て、山古志・太田地区の公共交通は、平成20年7月からNPO法人中越防災フロンティアが最大5年の期間限定で運営することが決まった(名称「クローバーバス」の由来は後述)。その後は、地元の住民組織へ引き継ぐことが前提となっており、その組織づくりもNPOが行う。NPO法人中越防災フロンティアによる運営方針、運行計画及びスケジュールは次のとおりである。

【運営方針】

期間限定。山古志・太田地区のコミュニティバス運営を先導
最大5年の期限付きとし、その間、山古志・太田地区にあった生活交通のあり方を模索する。その後地元の住民主体の組織へ引き継ぐ。
いわば長期的な社会実験の担い手。
地域内の全世帯がNPO会員となって頂くことがスタート
生活交通の確保は地域全体の問題ととらえ、地域内の全世帯がNPOの会員になる。
NPOの会員となることで、主体的に運行計画策定にかかわる。適切な運行サービスを自主的に検討し、住民自らができる役割を果たすことで、公共交通は持続可能となる。
運営に地域特性と自由な発想を取り入れるため運賃は無料
NPO会員となる地域住民の自由な発想で、地域特性を運営に盛り込む。
地域の実情にあった雇用(運転のプロ+地域のプロ(地元雇用))
買い物配達等バスを使った事業を検討 など
地域特性を運営・運行方法に取り入れる際の枠を広げるため、運賃は無料とする。
地域の資源・拠点施設を活用
地域の公共施設、学校、山古志向田ロータリーハウス等を結び、コミュニティの場として活用。
観光も含め、地域資源を生活交通に活用。

【運行主体の移行計画】

図

【クローバーバス・プロジェクト 理念】

  • 住民自らができることを考え、役割を果たすことで自由な移動を獲得する。
  • 生活交通を復活させるだけでなく、地域のコミュニティと生き甲斐を創出する。
  • 本来の「公共」とは・・必要なサービスと適度なサービスの提供、自治・自立・参画
  • 行政、民間企業(商業・医療)、地域外とのパートナーシップ

【運行計画概要】

図

出典:国土地理院「数値地図50000(地図画像)新潟」を利用して作成

※2008年3月当時の運行計画

クローバーの4つの由来

  1. クローバーバスで幸福を運びたい。
  2. みんなで支え合う仕組みの4つの主体「地域住民」「地域外の協力・交流」「行政機関」「NPO法人中越防災フロンティア」をクローバーの4枚の葉に見立てている。
  3. 運行エリアを山古志・太田地区を運行する4枚の「葉」と、葉と長岡中心を結ぶ「茎」をクローバーに見立てている(【運行計画概要】参照)。
  4. 中越(Chuetsu)の復興(Revitalization)を愛(LOVE)で結ぶとクローバー(CLOVER)が現れる。

5)運営方針・運行計画作成までの検討内容

運営方針、運行計画の概要について、それぞれの項目の狙いや計画ができるまでの検討内容についてまとめる。

1. ビジョン「クローバーバス・プロジェクト」

NPO法人中越防災フロンティアの取り組みは、短期的には路線バスに代わる地域の足を確保することを目指すが、本来の目的はバスを核とした地域づくり・地域活性化である。研究会では、公共交通を使った地域の将来ビジョンである「クローバー・プロジェクト」を提案し、ダイヤ等詳細な運行計画は協議会や地域への説明を通じて決定することにしている。

今後、NPOによるバス運行を目指し、地域内の各集落で説明を行う際も、とかく時刻や便数といった各論になることが予想されるが、先ず理念と取り組みの意義について地域の理解を得、地域住民の全員参加(NPO会員に加入)を目指すこととしている。

2. 望ましい運営主体の検討

当該地区においては、以下の理由から将来的には運営・運行を地域住民が自ら行うことが望ましいと考えている。

  • 地域内雇用・人材活用による地域活性化が可能
  • 他の事業と連携した運行も可能
  • 地域の意見聴取が可能。正確な需要とサービスレベルの把握。
  • 路線の維持も地域で検討し、収入にあった必要なサービスレベルを自ら決定。

先行するNPOの役割は、『資金調達面も含め安定したクローバーバス運行』『地域に適合した運行形態・運行計画の模索』『引き継ぐべき住民組織づくり』『全員参加型NPOであることを活かした地域活性化事業の展開』などの地ならしである。

【NPO法人中越防災フロンティアとは】

中越地震を契機に発足した組織。中越地震の被災地住民の生活再建を支援するとともに、地域の総合的な防災力の向上を目的として活動。

●現在の主な活動
防災視察の企画・実施とガイド育成。
地域外から訪れる雪に不慣れなボランティアを除雪作業の戦力に育成する「越後雪かき道場」の実施。

3. 全員参加と利用者限定

クローバーバスは、地域内の全世帯がNPOの会員になることを目指しており、以下の効果を期待している。

  • 地域全体の問題として公共交通確保をとらえていることを内外に示す(行政の支援・協賛企業へのアピール)。
  • NPO会員となることで、利用者としてではなく運営主体として運行計画策定にかかわる。
  • 自らの負担とサービスレベルの関係を認識した上で、適切な運行サービスを地域住民が自主的に検討する。
  • 住民自らが役割を果たす(運行する等)ことでサービスレベル向上も可能となる。

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