地域コミュニティと公共交通

地方公共交通に明日はあるか 地域における鉄道の存在意義を考える

不透明な今後の見通し北陸は新幹線開業がカギ

もっとも、今後の地方の鉄道を概観すると、利用者が急激に増加したり、経営環境が好転したりすることは、実際問題としてあまり考えにくい。地域の足を守る先駆的な取組みが各地でなされており、それを地道に続けることが大切であるのは言うまでもないが、これらは利用者の減少傾向をいくぶん緩和させた程度である。鉄道が地域の資産であるとの認識も今のところは広く一般に浸透しているとはいえるような状況ではない。

北陸の鉄道をこれからも維持・活性化させていこうとするとき、そのカギを握るのは北陸新幹線の金沢開業をどう活かしていくかではないだろうか。地方の鉄道は、一般的には一地域・都市における通勤・通学輸送が中心であり、輸送エリアや利用者層が比較的限定されているものと考えられるが、新幹線の開業で新たにフィーダーサービス、すなわち二次交通としての性格が今以上に高まることになる。

富山駅や金沢駅は、現在駅がある場所に新幹線が乗り入れる形となるため、北陸線のほか、富山は高山線と富山地方鉄道、富山ライトレールが、金沢は七尾線や浅野川線が、新幹線を降りてから周辺地域へ向かう足として機能することとなる。糸魚川駅も同様だが、同駅から分かれている大糸線は、沿線の人口規模等を考えると二次交通としての機能を果たすのは難しいと思われるが、北アルプスの東側に位置し大町市をはじめとした山岳観光の拠点を有する地理的な特性から、広域観光のルートの一つとして機能する可能性は十分考えられる。

一方、現在の駅からは距離を置く形で開設される上越駅、新黒部駅、新高岡駅(いずれも仮称)は、反対に二次交通による市内中心部への移動が必要となるケースだ。その役割を担うのが、上越は高田・春日山・直江津地区へ向かう信越線であり、高岡は在来線の高岡駅へ通じる城端線である。そして、直江津駅からは北陸線や北越急行が、高岡駅からは氷見線や万葉線が、周辺部へのさらなる移動手段として接続している。また新黒部駅は、富山地方鉄道線に新駅を設置し、連携を図る構想がある。

なお、北陸新幹線の開業によってJRの並行在来線である信越線・北陸線は経営分離される予定となっているが、具体的な経営分離区間や、分離後の経営体等については現在のところ決まっていない。また、支線についての扱いも未定である。

昨年から団塊世代の大量退職時代を迎えているが、心の豊かさの実現や価値観の多様化等を背景に、「二地域居住」すなわち都市住民が週末や一定期間を、農山漁村といった自宅とは別の場所で過ごす生活様式が注目されている。中には、それが定住へとつながる人々が出てくることも十分予想されよう。今のところ、地方から都市部、特に東京への人口流出は継続しているし、それによる過疎化が地方の鉄道経営にも影を落としているが、都市部の在住者を中心とした人々の地方志向は、今徐々にではあるが進行している(図4〜7)。

図4 大都市住民のマルチハビテーション志向

円グラフ

(総務省「過疎地域におけるマルチハビテーションに関する調査」2001年度)

図5 ふるさと暮らしに対する意向

グラフ

(NPO法人ふるさと回帰支援センター「ふるさと暮らしに関するアンケート調査」)

図6 年代区分別の二地域居住の状況

円グラフ

(国土交通省「二地域居住の現状及び将来推計に係る都市住民アンケート調査の結果」)

図7 二地域居住希望者の将来意向

グラフ

(国土交通省「二地域居住の現状及び将来推計に係る都市住民アンケート調査の結果」)

また、この10月には国土交通省に新たな外局である「観光庁」が設置され、観光の振興に本腰が入れられることとなる。国内消費の刺激による内需拡大や地域活性化を通じ、地方・地域の振興を図ろうとするものだが、観光における消費活動は、時間的、金銭的に余裕のある年齢層、すなわち退職した団塊の世代が中心となって牽引していくことは十分考えられる。

こういった背景から、居住先あるいは訪問先として地方を訪れる人は確実に増加するものと考えられるが、そのとき人々は何を基準・条件にその対象地域を検討するのであろうか。一つの尺度として、いつでも行ける、あるいは帰れること、つまりその地域に公共交通機関、特に鉄道が通じているか否かは、取捨選択を行う際の重要なファクターとなるに違いない。

折しも、東京都内の37の企業・団体が、運転免許を返納し「運転経歴証明書」を提示することで、各種割引・優遇などの特典が受けられる「高齢者運転免許自主返納サポート協議会」を今年3月に発足させたが、65歳以上のドライバーによる交通事故が増加していることがその背景にある。団塊の世代でも自動車の運転に不安を覚え始める人がいるものと考えられ、運転免許の自主的な返納は社会的要請となりつつあるといえる。こうしたことからも、自家用交通に頼らない地域づくりは、ますます重要になるものと考えられる。

確かに鉄道の維持にはコストを要し、そのための地域住民からの理解を得ることも容易なことではないかもしれない。単なる郷愁論で、鉄道を存続させたりするのも適切ではないだろう。しかし、目先の損得にとらわれることなく、鉄道を守っていくことが地域の発展の可能性をもたらすことは、常に念頭に置くべきことである。

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