世界が大きな変革期を迎えている中で、日本経済はいまひとつ元気がない。2005年にようやく好転した雇用環境も、世界金融危機のあおりを受けて再び悪化し、就職氷河期が到来している。欧米先進国に比べれば景気の落ち込みは小さく、ゆっくりではあるが回復に向かっているとされるが、まだ実感できないのが現状だろう。さらにギリシャなどのヨーロッパ諸国の財政危機が、世界経済に与える影響も懸念され、先行きは依然不透明だ。果たして日本は再び成長を実現できるのだろうか。
1970年代から90年代半ばまで、アメリカはひどい経済状況にあった。日本のメーカーが低価格と高品質商品でアメリカ市場を席捲し、アメリカの産業が低迷したことが大きな要因とされた。
象徴的だったのは、アメリカ最大のスポーツイベントであるスーパーボウル(アメリカンフットボールの年間ナンバーワンを決定する試合)の中継番組で、出てくるコマーシャル(CM)は日本企業のものばかりだったことだ。家電、エレクトロニクス、自動車など、次々と日本メーカーのCMが流れ、アメリカ企業のCMはなかなか出てこない。視聴率が70%とも80%ともいわれ、アメリカ人がこぞって視聴する番組を、日本企業がいわば乗っ取ってしまったわけである。
自動車を中心に日米貿易摩擦が大きな問題となり、アメリカの国会議事堂前で日本車をハンマーで叩き潰すなど、ジャパンバッシングと呼ばれた動きは記憶に新しいところだ。競争力を失い経済が低迷する中で、自信や誇りが揺らぎ、先行きの見えない不安がそうした動きを引き起こしたものと思われるが、当時のアメリカはなんとなく現在の日本の状況に似ているように感じる。
しかしアメリカは見事に復活を遂げ、再成長を実現している。それを推進しているのは、IT産業とバイオ産業という新しい分野での展開だ。
第二次大戦後の冷戦時代にアメリカは莫大な軍事予算を計上し、世界中の頭脳を集め、様々な分野の研究や技術開発を進めていた。ITやバイオもその中にあった。1990年の冷戦の終結とともに、軍事機密とされてきた技術や研究成果などの情報が一気に民間に開放された。この結果、マイクロソフトやグーグルなどのIT企業や1,500社以上と言われるバイオベンチャーが登場し着実に成長。アメリカ経済を牽引している。
アメリカはIT、バイオという新しいテクノロジーをエンジンに持つことで再成長を実現したのだ。