日本は再成長できる-成熟国の企業と地域戦略

再成長にはエンジンが必要。アジアの成長力に注目しつつ日本そして北陸の底力を発揮する。

嶌 信彦(ジャーナリスト)

様々なエンジンがもたらす再成長の可能性

いくつか例を上げてみよう。

1次産業では「和食」がエンジンになる。寿司や天ぷらなどはすでに世界中で食べられ和食はいまや世界最高の料理にランクづけされるようになったが、和食とは結局、素材の良さを生かし、素材を味わうもの。つまりコメや野菜や魚介類、肉などの品質や安全性、健康的なことが基盤になっており、それはすなわち日本の農業がすぐれているということなのだ。和食に使用する(できる)日本の農産品の品質の高さを、世界へと発信していくこと、そして日本の農産品をブランドにまで高めていくこと。ここに1.5次産業への成長の可能性がある。

2次産業では「伝統美」や「和のデザイン」がエンジンになる。日本の繊維産業は高い技術を誇るが、素材分野に比べてアパレル分野は競争力が高くない。日常衣料は中国や東南アジア、高級衣料は欧米のブランドメーカーから輸入され、日本のメーカーは苦戦している。世界で活躍する日本人デザイナーは多いものの、全体として日本の繊維産業はかつての輝きを失っている。

着物の絵柄や蒔絵などの伝統工芸、欧米人とは異なる色彩感覚。こうした感性を世界に発信できるデザイナーを活用するとともに、素材分野の高技術と連携することで、世界に発信可能なオリジナリティの高い製品開発が可能ではないか。それはさらに総合的なファッション産業を育成して可能性も秘めている。

また環境技術も再成長のエンジンとなる。環境技術の市場は1997年に27兆円。2010年には50兆円、自動車産業と並ぶ規模にまで拡大しており、この環境技術のトップランナーが日本といわれている。最近ではCO2やNOxがでない石炭火力発電所が大都市横浜に建設されているが、これも日本の技術の高さを示す例の一つだ。

いうまでもなくCO2の削減や炭素エネルギーからの転換、緑や自然の保全は人類共通の課題である。日本の環境技術の輸出から、技術を生かした環境製品の開発まで、その可能性は大きい。

第3次産業では観光分野での3.5次化に期待したい。ここでも日本の伝統文化や地域文化がエンジンになる。2004年の新潟県中越地震の発生時、私は上越新幹線に乗っており浦佐と長岡の間で閉じ込められた。2人の外国人と一緒に避難した際に話を聞いたら、一人はイギリス人、一人はカナダ人で、山古志に鯉を見にきたという。欧米では山古志(中越)の鯉と大和郡山の金魚は有名で、日本にくる度に鯉を買いに来ているとのことだった。

日本観光の最初は東京、京都、奈良、富士山だろうが、次第にディープな日本に関心をもつ。アニメやフィギュアなど日本発のコンテンツ文化で人気の秋葉原や、鯉を見に山古志に行く外国人はこれから増えるだろうし、伝統文化や地域文化を上手に発信すれば、旅行者(訪問者)は増加する。実は中国の年間海外旅行者は何と4,000万人を超えるが、そのうち日本へ来る人は100万人しかいない。規制で入口を制限しているからだ。これを緩めれば軽く1,000万人ぐらいがやって来るだろう。

私の試算によれば日本の新たな1.5次-3.5次産業の潜在需要は20-30兆円、成長率にして約5%はある(詳しくは拙著「日本の世界商品力」集英社新書)とみてよいだろう。

このように、日本の文化や歴史、価値観や美意識などをエンジンとして活用することで、再成長は実現可能となるのだ。環境技術やコンテンツ文化などを含め、日本の底力は大きい。

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