一度成長が止まった国は、新しい再成長のエンジンを手に入れないと、成長に転じることはできない。その意味で、日本は何を再成長のエンジンにするのか、再成長のエンジンはあるのか、ということが問われているのだ。
高度経済成長そしてその後のバブル崩壊、失なわれた20年という、20世紀の日本の歩みを振り返ってみると、低賃金でひたすら働く日本人の姿が浮かんでくる。欧米からは「ワーカホリック」と揶揄されながらも、効率よく高い技術をもって勤勉に働き、品質を高めてきた。低賃金だから商品の価格も安い。こうして低コストで高機能、丈夫で長持ちという日本製品が世界の市場を席捲し、経済大国へと成長したわけである。いわば日本人の「汗と涙と根性」、これが20世紀における日本の成長エンジンだったのだ。
しかし日本はもはや同じエンジンで21世紀に再成長を遂げることはできない。韓国や台湾、中国やインド、東欧などの国々が、かつての日本と同じように、低価格で高品質の製品を世界市場に送り出しているからだ。すでに欧米の家電やエレクトロニクス市場では、日本に代わって韓国メーカーなどが高いブランド力と低価格で主役の座についている。今の日本では品質はともかく、価格競争に勝てないのだ。
では21世紀における日本の再成長エンジンとは何か。私は日本の成長エンジンは非常にたくさんあるし、まだまだ日本には底力があると考えている。
日本社会の大半が中流層になったように、これからは中国や東南アジア、東欧やロシアなどの国々で国民の生活水準が向上し、家電製品や日用品が充足していくことが予想される。世界中で中流層が増えていく時代に求められるのは、個性的でセンスのあるもの、美しいもの、安全で安心できるもの、上質で心地よいもの、といった感性にマッチした、ワンランク上の製品やサービスである。
従来の産業がニーズを充足させる、必要なものを提供する産業だったとすれば、これからは感性を満足させる付加価値性をもった産業が求められるのだ。つまり1次産業は1.5次産業へ、2次産業は2.5次産業へ、3次産業は3.5次産業へと、ランクアップして展開していくことが必要であり有効なのだ。
中流層の「充足」から「満足」へというニーズの変化に応え、産業をプラス0.5次押し上げる際に力となるのは、センスや美意識、感性や文化の力である。日本には「わび」「さび」など繊細優美にして、独自の美意識や伝統様式がある。日本人のDNAに流れるこうした「和の価値観や文化」こそ、日本が再成長するためのエンジンとなる。