地域指標

北陸地域の自立に向けて プロジェクト2「北陸地域の自立に向けた方策の検討」の活動から

2008.4

北陸地域づくり研究所

4. 北陸の連携が拓く可能性

ここからは、このような特徴や変化をふまえながら、北陸の連携が拓く可能性について、次の4つの面から見ていくこととする。

1)産業振興(企業誘致、産業支援)

(i)企業誘致

経済産業省の「工場立地動向調査」によると、工場の立地地域選定理由は、「用地面積の確保」がトップで、以下「地価」、「市場への近接」、「自治体の助成や協力」となっている(図6)。

北陸地域はこれらいずれの点でも優位であるが、特に、三大都市圏と対岸諸国の双方の市場への近接性や、本社所在地である三大都市圏への近接性があるのが特徴である。

図6 工場立地地域選定理由

図

出典:経済産業省「平成14年工場立地動向調査」

さらに、関連企業への近接に関しては、「元気なモノ作り企業」(中小企業庁選定)の人口100万人当たり立地件数において、全国の4.7社に対し、北陸三県で12.2社、新潟県を加えた四県で8.8社に達しており、基盤技術からデザインまで多様な業種が集積し他地域に比べ格段の強みを有している。

この強みを、北陸が一つにまとまってトータルとしての誘致戦略を展開すれば、より威力を発揮するものと考える。

(ii)産業支援

同じ北陸の中でも、富山県は金属加工や医薬品、石川県は幅広い機械、福井県は繊維やメガネなど、各々特色を持った業種構造を持っている。各県が連携し、得意分野の技術を企業やそれを支援する公設試験研究機関が利用し合うことにより、研究がより一層深まるとともに、企業にとって利用価値の高い技術が生まれることが期待できる。

また、公設試験研究機関についても、より専門性を高めることなどで企業ニーズに適合した開発支援が可能になると共に、試験機器、設備の相互利用や共同研究の実施による効率化、共同購入によるより高度な検査機器の導入や依頼試験の広域での対応などの機能向上が期待できる(図7)。

図7 公設試験研究機関の連携

  1. 得意分野を活かした利用価値の高い技術の開発
    • 得意分野の技術を出し合い、利用しあう → 研究の一層の深化
  2. 公設試験研究機関の効率化と機能向上
    • 試験機器、設備の相互利用や共同研究の実施 → 効率化
    • 共同購入によるより高度な検査機器の導入や依頼試験への広域対応 → 機能向上
図

さらに、産学官連携の範囲も拡大し、共同研究を通じた新たな製品、技術開発、相互交流など産学官連携の機会の増加が期待できる。

2)社会資本整備(鉄道、物流)

(i)鉄道

北陸新幹線の金沢開業という交通インフラ整備によって地域間の時間距離が劇的に短縮されることになる。ただし、これまでは、地域の魅力という点についていえば、個々の地方都市と比較して大都市が上回っていたことから、大都市が一方的に人を引き付けるという片方向の交流となる傾向が強かった。そのため、大都市圏と地域との双方向の地域間交流を可能になるため、今後は各地域・都市がその個性や魅力を高め、それを連携することで地域全体の魅力を高め、新しい価値を創造していく取組みが求められる。

そうしたことから、北陸の各地域は特定の機能に特化するとともに、地域間の機能分担・役割分担を促進することが期待される。実際に、現在の北陸の主要都市はそれぞれがあらゆる機能を有するというフルセット型で整備されていることから、都市別の個性が見られない(図8)。

また、各地域の機能特化は、フルセット型整備に伴う過大投資や投資効率低下等の問題の広域的な解決につながることも期待できる。

図8 都市機能の比較

図

※各機能に該当する実数データを、当該データが最大の都市を100として指数化し、都市別に平均値化

(ii)物流

北陸地域は日本海側の諸地域の中でも対岸諸国に対して非常に優位な位置にあることに加え、新潟−東京、富山−名古屋、金沢−大阪はそれぞれほぼ300㎞の距離にあり、北東アジア・東アジアからの貨物を陸上輸送により三大都市圏に運ぶことが可能である。

地域としての港湾・物流機能を高めていくためには、各港湾の特徴などを活かし、現有の航路に加え、金沢港は北米航路、伏木富山港は中国大連航路、新潟港はロシア航路といったように役割分担をしながら連携を強めることが必要である。

また、北陸地域の港湾が相互補完しながら集荷力の向上を図り、競争力を一層強化していくためには、連携した積極的なポートセールス、PR活動の展開、インランド・デポの活用による集荷力の向上と片荷・空コンテナ問題の解消、日本海横断国際フェリー航路構想をはじめとした新規航路の開設といった施策が必要である(図9)。

図9 北陸のコンテナ航路と日本海横断国際フェリー航路

図

出典:北陸地方整備局資料

3)観光・イメージ

(i)文化・産業資源を活用した観光連携(図10)

食文化

雪は豊かで質の高い水圏域北陸を形成する源である。雪は布団のごとく温度を保つ働きがあり、また、雪による低温の温度を保つ機能や北陸の空気の清浄さは発酵食品をはじめ、他の地域にはみられない「食文化」を育んできた。

また、米、特にコシヒカリは、北陸の風土と文化の象徴として、食文化と一体で魅力を高めることが可能であり、北陸地域全体で発信の動きを起こしていくことが必要である。これらは、北陸の有する貴重な地域資源として活用すべきである。

産業観光

北陸地方では、福井県のめがねや漆器といった産業や電力施設、石川県の様々な伝統工芸品と陶磁器、食品、そして富山県のファスナーや機械、薬品などの製造業、食品と伝統工芸等が、産業観光の対象となりうるものである。地域が連携して、産業全体を観光という視点で見直し、多様な体験メニューを提供することが考えられる。

歴史文化遺産

北陸地方には合掌集落という世界遺産をはじめ、加賀藩文化、芭蕉の足跡なども含め多様な歴史文化遺産がある。これらを北陸の共有財産として活用していくことで魅力を高め、さらに「北陸博物館」(仮称)として様々な文化遺産を蓄積していきたい。

図10 文化・産業資源を活用した観光連携

(ii)長野県との連携(図11)

新潟県と北陸三県の観光資源は、味覚を除いて、他の地域にはなく圧倒的に優位だというものは少ない。一方、長野県は温泉と山岳リゾートとして海外からの集客も可能となる、知名度や規模等において圧倒的な優位に立つ観光資源を有する。観光行動が広域的な広がりを見せていく中では、相互連携によって相乗効果を高める取組みが必要である。

また、北陸は地域イメージが希薄であると言われるが、反対に長野県のそれは高い。また長野県は、主な旅行先の都道府県順位で北海道に次いで2位、三大都市圏からの二地域居住滞在先ではトップとなっている。

図11 長野県との連携することのメリット

北陸新幹線開業により北陸と長野県の時間距離が短縮されることから、北陸と長野県の連携が深まり、北陸にとっては地域イメージの向上がもたらされるほか、長野県にとっては金沢をはじめとする北陸の文化や鮮魚などの新鮮な食材のイメージの活用が期待でき、双方に効果があると考えられる。

4)三大都市圏に対置し支えあう地域

(i)太平洋側を経由しない交通動脈の形成

地域連携を考える上で、交通インフラ整備は必要不可欠であるが、大都市から伸びるルートのほか、地方都市間を結ぶ交通ネットワークが形成されることが求められる。これによって、太平洋側を経由しない交通網の動脈が形成され、結果として物流コストの削減や首都圏の交通混雑解消が促進されるほか、災害時における日本の国土のバックアップ機能(リダンダンシー)を果たすことが可能となる(図12)。

また、高速道路や新幹線、主要港湾・空港といった社会資本・交通インフラは、日本の骨格を形成し我が国全体の自立・発展の支えとなるものである。よって、その意義や費用の観点から、国が責任を持ってその整備を推進していくことが必要であり、この前提のもとで、日本海側の高速交通網が整備されることが求められる。

図12 北陸の社会資本・交通インフラ

出典:北陸地方整備局資料

(ii)被災経験を活かしての災害対応力強化・リダンダンシーの担い手(図13)

災害体験に基づくノウハウの提供

新潟県中越地震、能登半島地震、新潟県中越沖地震などの震災や、福井豪雨水害、新潟・福島豪雨水害などの大災害の体験から、災害対策や災害発生後の救援に対するノウハウが北陸にはある。北陸地域が連携しそれを蓄積・共有することで、他地域に万一のことがあった際、災害救援や事後対応が可能となる。

大都市災害に対する移住先

北信越地域は、首都直下型の地震が懸念されている首都圏、東海地震の危険と隣り合わせの中京圏、そして近畿圏と、いずれの都市圏とも適切な間隔が保たれており、大都市災害の際、二次災害の危険が少ない避難・移住先として望ましい要件を備えた地域である。

大都市災害に対する受け入れ体制

北陸地域は海上輸送が可能であるほか、陸上輸送でも各地域とネットワークを有することから、備蓄食料や救援物資の搬出入が容易である。また、物理的な避難場所としての受け入れ容量も十分確保されており、救援物資を多数の避難者に確実に届けるノウハウ等の蓄積も有していることから、災害対応力強化・リダンダンシーの担い手としての役割を果たしていくことができる。

図13 被災経験を活かす視点

(iii)原子力に関する幅広い貢献

北陸地域が原子力をはじめとするエネルギー供給基地であることは既述のとおりであるが、福井大学大学院工学研究科の「原子力・エネルギー安全工学専攻」では原子力とエネルギーに関する研究、専門技術者の育成に力を注いでおり、原子力発電所の安全稼動に関することなど、専門機関での人材育成を通じて情報、知識、ノウハウ、人材を提供できる地域である。

また、北陸は地震など貴重な災害経験から得た防災や減災に関するノウハウを提供できる唯一の地域である。

ページの先頭に戻る

北陸の視座バックナンバー