地方分権と道州制-新しい日本のカタチ

本格化する地方分権の議論。道州制の青写真の検討とともに新たな社会システムの設計が始まっている。

増田 寛也(前岩手県知事、前総務大臣)

現状に楔を打ち込む地方分権
多岐にわたる制度設計への対応が急務

まず、地方分権について言えば、住民自らが地域をよくしていくための手段であり将来の道州制にもつながる考え方なのだが、その議論はかねてからあるものの市民の皆さんの認識は希薄でメリットも十分理解されていない。では、地方分権の要諦は何であるのか、整理すると次のようになろう。

表1 地方分権の推進における検討ポイント

項目・分野 検討の内容
分権の対象 行政権とともに立法権の地方への移譲
自治体の性格 立法権、行政権、財政権を有する完全自治体としての「地方政府」の確立
国と地方自治体の関係 国の地方自治体に対する関与の縮小・廃止
地方自治体の条例制定権の拡大
財源と組織・人の扱い 地方移譲に係るルールの早期確立
公共事業 地方への優先的な移譲
  1. 補助金20兆円のうちの公共事業費4兆円の移譲
  2. 最初に直轄の国道・一級河川の移譲
議員制度 立候補資格の拡大
職員の資質向上 利害調整や政策発信能力等の向上

(増田氏使用資料を基に編集部作成)

国の持っている主な権限として司法権・立法権・行政権があり、それを地方に移すとことが地方分権であるが、司法権を地方に移すメリットはないので分権の対象は立法権と行政権ということになる。そして、理想的なのは立法、行政、そして財政権を有した、アメリカでいう州政府のような完全自治体-地方政府である。行政権だけでなく立法権も地方に委ねることで地方議会の条例制定権を拡大し、今より強大になる知事の権限行使や巨額の予算の使途等を地方議会が監視し民主的統制を図るのがその主眼だ。

次に、あまりに多すぎる国の関与の縮小が挙げられる。国による義務付け・枠付け事項は約1万に上るが、全国一律に決められ地域の特性を無視していたり、制定時点とは社会が変化していたりして、実情に見合わないものも多数見受けられる状態だ。地方分権改革推進委員会が昨年12月に勧告した、「第2次勧告〜「地方政府」の確立に向けた地方の役割と自主性の拡大〜」でもこのうち4,000項目の移譲・廃止の方針が示されている。地方ができるところは地方がやって国と分担していく方向である。

それから、分権に伴って生じる財源と人・組織の移譲をどう進めるかは、未だそのルールが確立されておらず早期の対応・解決が待たれるが、特に人は難問だ。過去にも地方分権は議論されてきているが、この問題が検討されることは少なかった。それは、人を地方に移す必要はなかったからであり、それだけに今回の分権はそのスケールがかつてない大きさだといえる。

公共事業については、国にしかできないところは国が責任を持って事業を行うこととし、直轄国道と一級河川の管理などそうでない部分は地方に優先的に移譲する方向を考えている。その他、議会制度改革や職員の資質の向上などについても検討が必要だろうと思う。その先にある道州制も踏まえ、地方分権の実現のためには、大まかなところだけでもこれだけの検討のポイントがあり、その制度設計は今から対応が必要なのである。

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