道州制については地域ブロックの議論ばかりが先行する嫌いがあるが、制度設計についての検討も当然必要である。その構想のルーツは第二次世界大戦前にまでさかのぼることができるが、より具体的な案として示されたのは昭和32(1957)年の第4次地方制度調査会「地方制度の改革に関する答申」が嚆矢で、道州のトップは公選制で決められるのではなく内閣総理大臣が任命するとされているのが現在の考え方と大きく異なる点である。国が地方を統治するという発想の下、それを中央集権でやるには限界があるので分散統治で実現させるという考え方だが、後に地方分権の意識の高まりから地域の自立や責任感の醸成が重視されるようになり、次第にトップは公選制で選ばれるべきとする方向へと転換していった。
直近では、平成18年の第28次地方制度調査会の答申「道州制のあり方に関する答申について」が記憶に新しい。その基本的な制度設計を見ていくと、まず道州の性格として、地方公共団体として都道府県に代えて置くと明記されている。つまり、その性格は都道府県と酷似したものとなり、トップは公選で決められることが明確に謳われた形となっている。
表4 道州制の基本的な制度設計
(「道州制のあり方に関する答申」の骨子(第28次地方制度調査会)より抜粋し編集部作成)
道州となる地域ブロックの必要性は前述したが、その区域は社会経済条件のほか、地理的・歴史的・文化的条件も勘案して数都道府県を合わせた区域とすることが原則とされ、答申では3つの案が示されている。新潟県についていえば地理的・文化的条件を考慮するとどの区域がよいかなお議論を要するところで、案によって北関東信越と北陸という2つの区域に分かれる形でそれが現出している。他に、長野県、山梨県、福井県なども案によって区域は異なっている。
また、道州への移行は原則として全国同時だが、関係する都道府県と国との調整が済んだところから移行してよいとの方針が示されている。その事務は、国の地方支分部局からできる限り移譲され、同時に現在の都道府県の事務を基礎自治体である市町村に大幅に移譲することとされており、道州は主として広域的な事務課題に軸足を移すという方向である。道州は性格上は都道府県に代わるものとされているが、その仕事は都道府県から移ってくるわけではない。なお、地域ブロックがつくられ複数の都道府県に代わって道州が置かれるので行政が遠い存在になるとの印象があるが、実際は逆で、都道府県のやっていたことを市町村が担当するようになることで、住民の目線に立った施策や事業の実施が可能になる。
表5 道州制の下で道州が担う事務
行政分野 | 道州が担う事務 |
---|---|
社会資本整備 |
|
環境 |
|
産業・経済 |
|
交通・通信 |
|
雇用・労働 |
|
安全・防災 |
|
福祉・健康 |
|
教育・文化 |
|
市町村間の調整 |
|
(太字は原則として道州が担うことになる事務で国から権限移譲があるもの 増田氏使用資料)
具体的に道州に移譲される事務としては、流動的な部分も残されているが表5のような案があり、特に太字は原則として移譲することとされているものである。中には、一級河川の信濃川のように、長大な河川ゆえ費用の工面や管理体制の構築等について検討が続いているなど個別対応を要するケースもあるが、大まかなイメージとしては道州が自治の権限を広め、その能力を涵養させていこうという方向性である。道州制が都道府県合併と異なるのは、地域ブロックを作るだけでなく、こうした質的な点で相違しているからである。
広域的な諸課題へ対処しうる新たな統治体制をつくるため今のシステムを大きく見直し、都道府県という枠組みを新たなものにしていかなければならず、難事業であることは確かだ。地域ブロックの区割りの議論だけが先行しているが、全体の体制を新しいものに変えていく、その総論の設計のところから始めて、徐々に区割りのような仔細な検討へ移ってはどうかと思う。