地方分権と道州制-新しい日本のカタチ

本格化する地方分権の議論。道州制の青写真の検討とともに新たな社会システムの設計が始まっている。

増田 寛也(前岩手県知事、前総務大臣)

100年の時を超えて問われ始めた都道府県のあり方
大所高所から現実を見据えることが地域の明日を拓く

道州制は今のところ概念が定まっていないが、簡単に言えば都道府県のあり方を変えるということである。その導入に対して、これまでは抵抗感を示す知事が多かったせいか具体に議論される機会は少なく、せいぜい模様眺めでまだ先の話だと捉えられることも多かったが、この頃はその様子に多少変化が見られる。それは、経済活動が広域化・グローバル化する中で都道府県間あるいは地域間の競争が熾烈になり、複数の県が一体となった地域全体でそれに打ち勝っていかなければならない状況がつくり出されていることが背景にある。

例えば東北6県で9つの空港があるが、その多くはわずかな国内線と週に何便かのソウル線が就航しているに過ぎず、不便で維持費もかさみ地域経済への効果も小さい。そこで、就航する路線数・便数が最も多く、アクセス鉄道も整備されている仙台空港をより利用しやすくするため、中長距離の主要な路線は仙台に集約し、そうでない路線はその他の空港に振り分ける。そして東北各地から仙台への往来が便利なように新幹線・高速道路等の整備を進めるのが適切だ。ところが、私のお膝元の岩手県では地元の花巻空港を整備しようとする声が当然沸きあがるし、よその県でも同じことが起こる。その結果、東北地方全体の経済的な地位は低下して、負けてしまうという具合だ。

表2 東北地方の空港

空港 就航路線数・便数 利用者数
青森県 青森空港 国内4路線、24便/日 国際2路線、12便/週 126万人
三沢空港 国内2路線、8便/日 32万人
岩手県 花巻空港 国内3路線、12便/日 46万人
宮城県 仙台空港 国内9路線、84便/日 国際7路線、48便/週 339万人
秋田県 秋田空港 国内4路線、30便/日 国際1路線、3便/週 132万人
大館能代空港 国内2路線、6便/日 15万人
山形県 山形空港 国内4路線、14便/日 20万人
庄内空港 国内2路線、10便/日 43万人
福島県 福島空港 国内2路線、14便/日 国際2路線、5便/週 53万人

(就航路線数・便数は平成21年3月現在のダイヤ、利用者数は国内線・国際線合計で国土交通省「空港管理状況調書」平成18年度を基に編集部作成)

お互いが競争意識で「隣の県には負けるな」と思っているとスケールの小さな争いになり、地域全体が沈没してしまいかねない。現在の都道府県制になったのが明治21(1888)年で、以後120年の間制度的に変らずにいるが、経済のスケールや交通体系はこの間大きく変化しており、東北の各県なら東北地方全体の発展を考えていくため、政治体制としてもそれに見合った最も適切な形を考えていく時期を迎えている。

そのため複数の都道府県からなる地域ブロックの形成が遡上に載ることになるが、このことが道州制の検討における一つのポイントだ。そこで問われるのが地域ブロックの運営に必要となる十分な経済力が備わっているかだが、想定される各ブロックの各種指標を見ると人口やGDPなどはいずれも欧州の1国以上の規模を有しており問題ない。その上で、各地域ブロックのエンジンとなりうる拠点の機能を強化し伸ばしていくとともに、ブロック全体でその拠点機能を活用していくという視点が大切で、これらがないと競争の中で生きていくことは困難だろうと考えられる。

表3 地域ブロックの人口・面積・GDP比較

  人口(万人) 面積(km2 総生産(兆円)
北海道 563 フィンランド(530) 83,455 19.6
東北 963 スウェーデン(918) 63,987 32.7
北関東 1,627 オランダ(1,633) 35,233 54.4
南関東 2,831 カリフォルニア州(3,646) 13,716 133.8
(東京) 1,258 ニューヨーク州(1,931) 2,102 81.8
北陸 554 デンマーク(543) 22,115 21.4
東海 1,502 オランダ(1,633) 28,423 63.8
関西 2,089 台湾(2,298) 27,173 79.0
中国 768 スイス(750) 31,813 28.3
四国 409 アイルランド(434) 18,789 13.4
九州 1,335 オランダ(1,633) 39,910 43.2
沖縄 136 ハワイ州(129) 2,274 3.5

(区域は第28次地方制度調査会答申の11道州の区域例に準拠 増田氏使用資料を基に編集部作成)

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