2010年に期限が切れるもう一つが「中山間地域等直接支払制度」である。中山間地域等直接支払制度は、1999年(平成11年)の「食料・農業・農村基本法」(新農業基本法)の制定を背景に登場してきた農山村の再生を目指す制度である。
農業生産の条件が不利な中山間地では、過疎化や高齢化の影響もあって、耕作放棄地が増加している。この動きが進行すると、中山間地が果たしている、食料供給、防災や景観保全等の多面的な役割、機能を果たせなくなる。しかしただ補助金を出すだけでは、本来的な意味での回復や再生とはならない。
そこで、中山間地域で耕作する個人や組織を特定し、目標を明確にして協定を結び、その達成のために必要な費用を支援する制度を立ち上げることにした。これが2000(平成12)年から導入された中山間地域等直接支払制度である。
耕作意欲のある個人や法人に対して、彼らが必要としている支援を行うこと。また協定という手法をとっていることで、目標やプロセスが明確であり評価しやすいことなどが特色となっている。(図6)
図6;中山間地域直接支払制度の概要
目的 | 中山間地域は、多面的機能(洪水の防止や水源の保全、美しい緑の景観の提供)を有するが、平地に比べ傾斜地が多いなど、農業生産条件が不利なため耕作放棄地が発生している。中山間地域等直接支払制度は、中山間地域の農業生産に対して直接支払いを行うことによって、農地を保存し中山間地域の多面的機能を確保することを目的としている。 |
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制度の概要 | 中山間地域の農地を耕作する農業従事者や生産組織等が、農地や水利施設の適切な管理と多様な活動などについて話し合い集落協定を締結。 市町村に集落協定の申請を行い、市町村による認定を受け、対象行為の確認が行われた場合は、この集落提携に基づいて活動する農業従事者や生産組織等に対して、農地の不利性や耕作面積に応じて交付金を配布。 |
対象地域 | 特定農山村法、山村振興法、過疎法、半島振興法、離島振興法、沖縄振興開発特別措置法、奄美群島振興開発特別措置法、小笠原諸島振興開発特別措置法の対象地域。及び、都道府県知事によって指定された地域。 |
対象者 | 集落協定に基づき、5年間以上継続して農業生産活動を行う農業者や生産組織のほか農業協同組合、農業法人などの団体も対象。 |
2005(平成17)年に、より積極的な農業生産活動等に対して、より手厚い支援を行う、という考え方で、以下の3点をポイントとする制度改正が行われた。
平成19年度(2007年)に中山間地域等直接支払交付金を利用した市町村は全国で1,038、協定数は28,708で前年度に比べて193協定増加している。交付金は、516億9,800万円に達している。北陸地方でも新潟県を筆頭に制度の利用は多い。(図7)
図7;中山間地域等直接支払制度の実施状況
実施市町村 | 協定数 | 交付金総額(万円) | ||
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全国 | 1,038 | 28,708 | 516億9,800 | |
北陸計 | 70 | 2,063 | 44億9,000 | |
新潟県 | 25 | 1,006 | 28億8,500 | |
富山県 | 12 | 332 | 7億2,500 | |
石川県 | 16 | 422 | 5億1,200 | |
福井県 | 17 | 303 | 3億6,900 |
出典:北陸農政局「平成19年度中山間地域等直接支払制度の実施状況」
※端数処理のため各県の合計は北陸計と一致しない
農林水産省が平成20年6月に発表した「中山間地域等直接支払制度中間年評価の結果」によると、耕作放棄の発生防止効果について「非常に効果ある」と回答した市町村は54.2%、「一定の効果あり」と合わせて99%の市町村が制度の効果を認めている。
また直接支払制度の目的であった、中山間地域の多面的機能の発揮効果については、31%の市町村が「非常に効果あり」と回答。「一定の効果あり」と合わせて94.2%の市町村が制度の効果を認めている。(図8)
図8;耕作放棄の発生防止効果について
出典:農林水産省「中山間地域等直接支払制度中間年評価の結果」
制度に対する関係者の評価はこのように高いが、交付金が直接個人に流れる仕組みから「ばらまき」という批判もある。また2004年には、財務省の諮問機関である財政制度等審議会が、「廃止も含め、抜本的に見直しを行うべき」と指摘した経緯もある。
中山間地域は多面的な機能を持つ戦略地域だ、とは小田切教授の指摘であるが、その再生のツールともいえる制度は継続されるのか。
日本の国づくりと中山間地の未来を読む道しるべとなるだろう。