建設業と地域経済の再生-「複業化」のすすめ

業種を越えた「複業化」で建設業の再編・再生を進めつつ地方の自立型産業の創出を推進する。

米田 雅子(慶応義塾大学理工学部教授)

めざすべき方向は業種を越えた『複業化』

私はつねづね、地域格差の問題に打ち出の小づちはなく、地方の方々が自立型の産業を興す努力にこそ解決の光がある、と言い続けている。そして地方産業創出の方向性は、「業種を越えた『複業化』」にあると提案している。

いうまでもなく地方が自立型産業を創出することは重要だが、その実現は簡単なことではない。人口が多く市場が大きな大都市では一つの業態だけでもビジネスが成立するが、人口が少なく市場が小さい地方では成立しない。費用対収入が見合わず、年間を通して継続的な仕事を確保することは難しい。したがって従来にない新しいビジネスモデルが必要になる。そこで注目したいのが、企業や個人が業種を越えて複数の本業を持つ「複業化」であり、複数の業種が協力して事業を行う「複業会社」である。専業で取り組むには市場が小さいが、ニーズが確かにある。異業種ではあってもそうした分野を見つけ、副業ではなく本業として取り組む。複数の本業を展開するから「複業化」である。事業者にとっては、分野の異なる複数の事業を持つことで収益を安定させられる。地域の生活者にとっては安定的に商品やサービスが提供され、利便性が高まるという効果が期待できる。ちなみに近代経済学によると、市場が拡大する時は専門分化が効率化に寄与するというが、現在の過疎の進む地方では、市場の縮小がおこっている。近代経済学の理論とは逆向きの変化である。市場が縮小する場合には、「あれもこれもの複業化」が有効と考える。前述したように農林漁業は、建設業と並ぶ地方の基幹産業である。地方における複業化では農林漁業への展開や連携が多くなることが予想される。

現状は農業者の高齢化や後継者不足もあって、先行きに危機感を持っている地域は多い。複業化を進めることで、農林漁業に取り組む事業者を増やすことは、地方の活性化につながる取り組みとなる。また国土保全や温暖化対策、環境の点から、農林漁業の役割はさらに重要になっている。その意味では、日本の国家戦略につながる取り組みと言っても過言ではないだろう。

「複業化」の動きは全国で始まっている。例えば、建設事業とともに、農業や介護ビジネスなどの複業に取り組む建設会社が出現。農業分野でも、稲作のほかに民宿や観光農園を経営する農業者や農業法人が増えている。「複業会社」では、森林組合と建設業による新しい林業システムづくり、住宅や介護の会社が連携して介護・福祉ビジネスを模索する動きなどが始まっている。

こうした複業会社や複業化こそ、これからの地方産業を生み出す原動力となる。中でも期待されているのが「農商工連携」だ。農林水産業をベースに、商工業、流通業、建設業等が業種の枠を越えて連携し、地域ブランド開発や観光振興、リサイクル事業など、地域独自の新たなビジネスを開発・展開していくというもの。ここ数年、農商工連携に取り組む事例は全国的に増え続けており、国も「農商工等連携促進法」を制定し、本格的に事業を支援している

地方が自立型産業を創出していくために、業種を越えた複業化や産業間の連携を視野に入れつつ、制度改革や異業種交流の拡大、そして新しい業種横断的な成長戦略の策定が必要だ。

図4 業種を越えた複業化の展開

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