建設業と地域経済の再生-「複業化」のすすめ

業種を越えた「複業化」で建設業の再編・再生を進めつつ地方の自立型産業の創出を推進する。

米田 雅子(慶応義塾大学理工学部教授)

中長期に複業化を進めつつ短期的には「平成検地」を

耕作放棄地や遊休農地を集めて大規模化し、建設業が建設機械なども活用しながら営農する。あるいは農商工建の連携で、工業団地を活用して「野菜工場」をつくり、地域ブランド化を進めつつ地元の小売店で販売したり、観光客向けのレストランで提供する。このように複業化や農商工建の連携の可能性は大きいように感じる。しかしその実現には様々な課題もある。中でも懸念されるのが行政の縦割りという壁だ。

農地については様々な制限があり、異業種からの参入には様々な手続きが必要になる。野菜工場の場合も、農業施設として整備するならば工業団地には入れない可能性がある。逆に農外施設ならば工業団地に入れても、農業関係の支援が受けられないことが予想される。

地域の自由な発想や自立型産業の創出への取り組みを促すためには、規制はできるだけ少なくし、業種や行政間の壁も取り除いていく必要がある。そのためには地方の努力とともに、大きな政治的判断や国の推進体制が不可欠だ。省庁横断的な組織を発足させ、地方の複業化を検討・推進していくことが求められる。

複業化の推進によって建設業を再編・再生し、同時に地方の自立的産業を創出するという取り組みは、時間をかけてでもしっかりと進めるべきものだし、成果を得るまでには時間も必要になる。その間の雇用や地方の景気対策として「平成検地」の実施を提唱したい。

日本の地籍や境界などはまだあいまいなところが多く残っている。そこで国家事業として地籍調査、境界確認、特に森林の境界確認を行う。それだけでなく、国土の状況、がけ崩れ、橋梁、トンネルなど危険箇所を調べ、結果を基にデジタル・プラットフォームを作るというのが、「平成検地」の概要だ。

各省庁や機関、自治体等は、国土に関するデジタル・データを持っているが、その内容や調査時期などは統一されていない。そこで平成検地の調査結果をまとめる段階で、様々なデータを統合し、共有できるデジタル基盤(デジタル・プラットフォーム)を構築する。地籍や境界に、社会資本や危険箇所情報なども共有することで、森林管理や防災、国土管理や社会資本の維持管理や整備計画まで、広範囲に活用することができる。

都市部よりも中山間地ほど調査地点が多くなるから、地方ほど調査員が必要となり雇用が発生する。また調査には技術者をはじめ、農林業など様々な分野の人たちの参加・協力が必要であり、異業種交流の機会として、次なる複業化へのステップともなる。

何より自分たちが住む地域の山林の現状や地勢、危険箇所等を知ることで、国土保全の意識や防災への取り組みを高めることにもつながる。50年後、100年後の国土に向けて、平成検地をぜひ実現すべきと考えている。

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