建設業と地域経済の再生-「複業化」のすすめ

業種を越えた「複業化」で建設業の再編・再生を進めつつ地方の自立型産業の創出を推進する。

米田 雅子(慶応義塾大学理工学部教授)

地方の再生と建設業のこれから

国土が脆弱で山間地が多く、自然災害の多い日本では、技術力の高い大手建設会社だけでは国土は守れない。それぞれの自然や気候、風土を熟知した、地域に根ざした優秀な建設会社が不可欠である。各地域において必要な社会基盤を、長期に使用できる良質なストックとしてつくり、着実に維持管理していく建設産業こそがこれからの日本には求められる。

しかし残念ながら、現在の建設業を取り巻く厳しい環境下では、本業だけでは経営が成り立たない。建設市場はピーク時から半減したのに、就業者は2割程度の減少にとどまっている。明らかに供給過剰の状況にあり、全国の建設業特に需要の少ない地方ほど苦しい状況にあるのが現状だ。

ではどうすれば良いのか。かなり乱暴ではあるが、建設業再編のシナリオづくりと試算を行ってみた。

建設業就業者を仮に550万人とする。まず更新や維持管理を考えると、建設専業企業(約18万社)の雇用は約7割の360万人と見込まれる。残る190万人のうち50万人は、成長分野である環境、リサイクル、IT産業等に移ってもらう。最後に残った140万人を複業化した企業(約7万社)で雇用するというものだ。

140万人のうち半分の70万人分は、農林漁業や福祉、指定管理者など公的サービスなど他の業種(=複業分野)で雇用し、残りは本業の建設分野で雇用する。合併、統合などで企業体質を強化することも必要だが、この試算ならば失業なき再編が可能になる。

ここでポイントとなるのはやはり複業化である。地方でいかに複業化していくかが建設業再編の課題となる。もちろん利益が大きい、雇用者数が大きいことが複業化を進める上で重要だ。しかしそれだけではなく、建設業のもつ資源(情報やノウハウ、人材や機材など)を活用できること、そして地域社会や地域産業に貢献できるという視点も重視したい。

例えば高齢化や後継者不足に悩む農業への複業化は、地域の基幹産業の衰退を防ぐ意味がある。同様に林業への複業化は衰退を防ぐとともに、土砂災害などから地域を守るということにもつながる。いずれの分野でも、建設機械等を活用すれば作業の軽減化や効率化が期待できる。

PFIや施設の指定管理者は、建設業の専門的な知識を活かしてサービスレベルを上げることが可能となる。介護や福祉分野は、ノウハウはないものの高齢化という地域の大きな課題への取り組みであり意義は大きい。北陸地方では冬期除雪に建設業が活躍しているが、通年ではなくてもこうした取り組みも複業化の一つと捉えることができるだろう。

国土を守りながら、地域を支え、地方を再生する複業企業へと成長していくこと。これがこれからの地方の建設業に期待される方向だ。

図5 失業なき建設業再編のシナリオ

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