北東アジアとの連携戦略

日本経済はアメリカからアジアへシフト。アジア・ゲートウェイ構想を主導するエリアに向けて北陸には地理的優位性を生かす戦略が必要だ。

柳井 雅也 (東北学院大学教授)

物流から人的交流へ 北東アジアとの連携のひろがり

物流から人的交流へ、北東アジアと北陸の関係は今後さらに拡大する。

中国の経済成長による社会変化は、日本企業の中国ビジネスを多様なものに変えはじめている。これまでは人件費や土地などが安いことに注目し、製造分野の工場が次々に進出した。中国で製造して日本市場で販売するというのが基本的なビジネスモデルだった。しかし経済成長によって中国の人たちの購買力が向上したことで、中国市場向けに商品を生産する、あるいは日本から持ち込んで販売するといったビジネスが拡大している。

また情報通信分野の企業の進出も始まっている。例えばインテック(本社:富山市)は、東北大学や中国のIT企業と連携して大連への進出を果たしている。大連の人件費は日本のおよそ3分の1。低コストで単純なプログラムを作成し、通信ネットワークで日本に逆輸入するというビジネスを展開している。

日本企業が数多く進出していることに注目したビジネスも活況だ。日系企業相手のビジネスモデルとして、もっとも典型的なのは、日本食の事業であろう。現地に赴任する日本人は、当然日本食が恋しくなる。そうした日本人をターゲットにしたラーメン屋や和食店がにぎわっている。

また中国に進出した日本企業のウイルス対策やITのコンサルティングを主な業務としている企業もある。日本語だから細かな要望も伝えられ、一方で日本人や日本企業が困ることを先取りしてアドバイスしてくれる。蘇州や無錫など日系企業が多く進出する地域では、こうしたビジネスが増えている。

北東アジア、特に中国でのビジネスチャンスはひろがっているものの、北陸の企業はなかなかそうしたチャンスをつかみきれていないようだ。その理由として、小規模な企業が多い、海外進出に慣れていない、中国のビジネス事情や進出する地域のリアルな情報がないといったことが挙げられる。

今後さらに発展が見込まれる北東アジアとの連携は、北陸の企業や地域経済にとって重要な課題である。連携やビジネスの拡大を支援したり促したりするための仕組みを構築して行くことは、北陸全体の活力を高める地域戦略となる。

具体的な取り組みとして北陸地方の多様な主体の連携による、北東アジアビジネスに関するライブラリーシステム及びナレッジマネジメントシステムの構築を提案したい。

ライブラリーシステムは、対岸諸国の各種情報やマーケティングデータ、企業やビジネスに関する情報等を蓄積し、閲覧できるような仕組みである。公的機関や研究機関が中心となって各種基本情報をデータベース化し一般に公開。随時情報を加えたり、定期的に更新したりすることで、企業や産業関係者のビジネスに資するものだ。このシステムを利用して、異業種間の連携やマッチングも可能となる。北東アジアに特化したライブラリーは初めての試みとなるのではないだろうか。

ナレッジマネジメントとは、個々の持つ知識や情報を、組織全体で共有し、有効に活用していくことで業績を上げようとする経営手法である。この手法を応用して、ビジネス上のトラブルの経験や解決方法、海外進出時の成功事例や失敗事例、新規挑戦企業へのアドバイスや役に立つ情報などを、みんなで登録し自由に閲覧できる仕組みを作るというものだ。いわばみんなの知恵や経験を北陸全体で共有しようという試みだ。失敗事例やトラブルの解決体験には、大きなノウハウや情報が潜んでいる。リスクマネジメントや企業の方針を決める上で大きな力となるだろう。

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