国土学からみた北陸の地域づくり(上)

脆弱な国土と厳しい自然条件。北陸も日本もたゆまぬ働きかけで安全と競争力を確保していく必要がある

大石 久和(財団法人国土技術研究センター理事長)

大石 久和(おおいし ひさかず)
写真:大石 久和

財団法人国土技術研究センター理事長

1945年兵庫県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、70年に建設省(現国土交通省)に入省。大臣官房技術審議官、道路局長、国土交通省技監などを歴任。

2004年7月より財団法人国土技術研究センター理事長。また、早稲田大学大学院公共経営研究科客員教授、東京大学大学院情報学環特任教授も兼務している。著書に『国土学事始め』(毎日新聞社出版)がある。

世界の民と競争しつつ生きるには「国土学」の考え方が必要だ

日本は世界中から食料を買い、エネルギーや原材料を買っている。一方で世界中に工業製品を中心に日本製品を売っている。好むと好まざるに関わらず、日本は世界の国々と深く関わりながら、そして競争しながら成長を続けていかなければならない。こうした時代を迎えて、日本はグローバル市場での競争力、国際競争力を維持・向上させていくことが国是となっている。少なくとも現状の競争力を維持し続けないと、子や孫の世代の生活水準も日本の国力も確実に低下してしまう。

一国の競争力はその国を構成する企業や個々人、あるいは組織・団体等の努力によって生まれ高まるものだが、それを支える競争力の根源が「国土」だ。ここでいう「国土」とは、先人たちのたゆまぬ働きかけで、生活や経済活動のためのインフラストラクチャ(社会資本)が整備され、安全・快適かつ効率的に様々な活動を展開できる「場」あるいは「空間」としての国土を意味する。

安全を支える治山・治水をはじめ、道路や空港・港湾、農業基盤や情報通信基盤、発電所や学校、病院、そして工場などの生産施設。世界の国々は様々なインフラストラクチャが整備された「国土」を活用して、国際的な競争力を持つ「自国の製品」を生み出し続けている。工業製品だけではなく文化やコンテンツも製品であり、それを生み出す仕組みも国土の一部である。国土とはいわば一国の競争力を生み出す基盤であり、エンジンのようなものである。その性能が高まれば国際競争力も高まることになる。

現在の日本の国際競争力は、これまでの日本人が営々と築き上げてきた国土によって支えられている。いわば過去からの贈り物といえる。私たちは世界の民とさらなる競争を行いつつ生き続けるために、国土の性能を今よりも高めていく必要がある。さらには次代、次々世代へと豊かな日本を継承していくために、将来を見据えた国土づくりを進めていくことが求められる。

日本がグローバル社会で成長・発展を続けていくには、競争力を高める不断の努力や取り組みが求められる。今ある国土にたえず働きかけ、さらによりよき国土を形成していくという取り組みだ。そのためには国土の成り立ちや現状を知り、あるべき未来を展望するという、時間軸の視点が必要となる。さらに諸外国の状況を把握し、その関係の中で高めるべき競争力と国土の方向性を明らかにするという空間軸の視点も欠かせない。

時間軸と空間軸の視点から国土のあり方を展望し、その実現に必要な働きかけの方策を明らかにしていくこと。私の提唱する「国土学」とはこうした考えに基づくものであり、それは国土をいかに経営していくかということでもある。

◇国土学の思想

国土学の思想

(大石氏作成資料)

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