国土構造の変化と地域づくり

情報革命で大きく転換する日本社会。地方圏は自らの選択と戦略によって新たな時代の地域づくりを推進すべきだ。

戸所 隆 (高崎経済大学地域政策学部教授、文学博士)

時代の変化に対応できていない日本
東京をゴールとする社会システムからの脱却が課題

残念ながら現在の日本社会は、「情報革命」という時代の大転換に対応できていない。一番大きな課題は、東京一極集中や東京(中央)で意思決定されるしくみが、依然として日本を動かす社会システムとなっていることだろう。

近年、地方分権改革の必要性が叫ばれ、それに呼応して市町村合併が進んだ。国の権限を地方に移譲し、地方政府がそれぞれの特性や戦略に基づいて自治を行うという、分権社会の考え方や方向性は情報革命時代に合致するものであり、大いに推進すべきことである。

しかし現状を見る限りでは、日本の自治体は一部の大都市を除いて、「安全・安心の確保」「基礎教育の充実」「雇用の確保」そして「自治の保障」といった、地方政府が遂行すべきミッションを十分に果たしているとはいえない。市町村合併で自治体としての規模は大きくなったものの、財政問題や地域経済の低迷などに直面し、また生活水準や行政サービス等に関して東京に代表される大都市との格差の拡がりに苦慮しているのが実情だ。

注意すべきは、地方政府が担うべきミッションに関する政策の意思決定が地方ではできないという点である。安全・安心に関わる交通政策や国土政策、医療政策をはじめ、教育政策や産業政策・雇用政策等は、依然として国の権限が強く、中央(東京)で意思決定が行われている。意思決定を行うのは東京で生活している人であり、その尺度や基準に地方の現実や視点は反映されにくい。さらに、政策には「市場原理」「競争」の視点が求められるから、どうしても「東京( = 強者)の論理」によって政策が決定されがちになる。

例えば教育再生の名のもとに議論されている学校選択制の拡大教育バウチャー制度が導入されると、首都圏の学校に進学する若者が増加し、地方圏の学校は生徒・学生数の減少によって統廃合を余儀なくされるだろう。それは地方を支えるべき人材の流出がさらに拡大することにほかならない。

産業分野でも本社機能の東京への一極集中が進んでいる。地方で生れた企業でも、成長し全国展開を始めると競って東京や横浜など首都圏に本社を移すようになる。経営者にとって東京に本社を持つことはある種のステータスであり、一つのゴールのようになっている。

国内市場や海外市場で勝ち抜いていくためには他社よりも早く有効な情報をキャッチし、自社の戦略に反映・活用していく必要がある。そうした情報は地方よりも東京の方が多く早い。いわば本社を東京に移すのは企業にとっての生き残り戦略の一つといえるかもしれない。しかしそれに伴い、中枢を担う人材も東京に移り住むことになり、地方から優秀な人材や技術・ノウハウが流出してしまう。ここでも都市と地方の格差が拡大するわけである。

このように東京で意思決定が行われる、あるいは東京をゴールとする社会システムや構造がある限り、人や情報、お金は東京に集中する。その集中した人や情報が、さらに世界からの情報を引き寄せ、地方圏との情報格差が拡がり、その格差はそのまま経済活動や地域間の格差となっていくのである。

来るべき日本の姿として分権社会の推進が期待されるが、そのためにもまずはこうした東京一極集中のしくみやシステムを変えることが、日本の大きな課題といえよう。

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