図6 北陸系起業による中国進出の諸類型
これらの調査から明らかになった企業の進出形態を類型化したのが図6である。
まず、1類型の原材料利用型は、比較的、中堅・中小企業が進出している類型で、陶器、山菜、繊維などが該当する。地元の企業などから買い付けを行い、簡単な加工を施して日本などに輸出する。製造技術は標準化されコスト削減が主目的となる。
2類型の開発輸入型は、規模が比較的大きく、国内外から部品調達を行い一貫生産を行って製品に仕上げて販売を行う類型である。これにはアルミ加工などが該当する。取引企業の探索、現地情報、労務管理なども自前で行い、ニッチ製品を扱うなど価格競争力もある。
3類型の随伴立地型は、親企業に乞われて随伴立地した類型である。これらの企業は仕事確保の意味合いが強く国内にとどまっても前途が開けないジレンマから進出するケースが多い。当初は日本の母工場とは技術格差を伴った進出を行う。
4類型の市場分割型は、水平分業を意味する。市場分割型の事業内容となることから、生産されたものは現地販売や第三国輸出にまわり、中国人技術者も育っている。
地域別では、1〜4類型は東北、長江デルタいずれでも見られる類型ではあるが、北陸系企業の場合は1・2類型は主に東北地域で優勢に見られる類型であるし、3類型は両地域でみられ、4類型は長江デルタ地域でみられる類型といえる。
これらの特徴は、北陸の企業が北東アジアに進出する際の参考になるものと考えられる。
この他、ロシアにおいては、類型1のパターンに似ているが、現地企業との連携や、独自情報の入手による輸出体制の構築などが求められる。
次に、政策・法律・現地の経済環境などについて整理すると、以下のとおりである。
まず中国について、企業所得税の内外統一はアメリカからの貿易赤字削減要求と内資企業(外資に対する優遇)の不満を解決する手段として措置された法律変更であるが、これは外資系企業にとっては、業種が選別されることを意味している。また、新労働契約法の施行は、多くの企業にとって生産コストのアップを意味することとなっている。
しかし、中国では法律などの解釈・運用が省レベルや担当者によって変わることや、その運用の例外規定や解釈変更があり、現地では情報が錯綜している。また、新労働契約法の解釈についても、厳密に運用が開始されれば、中小企業は大きな打撃を受けることから、その例外規定が出るのではないかなどの憶測が出ている。このような法律の運用面における信頼性がまだ確立していないのが現状である。
中国における地域別の傾向として、まず東北地域は、大連市でも人件費の高騰が始まり、繊維産業はじめ労働集約的な企業が新規立地するには、奥地侵攻型の立地選定が大事になりつつある。
上海をはじめ、蘇州、無錫地域は、人件費、物価全般の高騰が続いており、これを織り込んだ企業進出が求められる。また、投資は自動車関連投資が一段落し、今はサービス業の投資が活発になりつつある。現地市場は富裕層や中間層の急速な形成によって、高級化も進んでいることから、嗜好は当然異なるものの日本と同等レベルの製品販売を行っていく必要がある。また、高級人材といわれる、技術者、通訳、経理などの不足感が広がっており、これらの人材獲得も重要である。社会インフラについては電力不足はまだ続いている。しかし、開発区の「格」によって、その供給状況は異なるので、進出時はこの点の確認もしておく必要がある。
北陸系企業は中堅・中小企業の進出が多く、製品も軽薄量産型製品の製造が主である。この特徴を踏まえて中国およびロシアについて評価すれば以下のとおりである。
北陸系企業は、一般に食品、繊維、金属などに特化し、環境産業、サービス業などの育成が遅れている。このことから、中国(特に上海)においては、現地で進出が歓迎される業種とのギャップが生じ、撤退・新規立地の鈍化・収益の減少を惹起する可能性がある。これは、既に現地で操業を続けている企業や、これから進出を考える企業にとっては、先の類型を踏まえた戦略構築の上で、考慮すべき事柄といえる。
長江デルタ地域では、製造業は上海よりは蘇州、無錫に立地移動し、世界戦略をにらんだ外資系企業を頂点に、それに関連する業種・企業の集積が進んでいる。したがって、それらの企業集積自身が、世界貿易、企業間取引、従業員や家族を対象とした販売、物流・サービス・金融業の形成など、大きなマーケットを形成している。このマーケットを狙った進出にも潜在的なビジネスチャンスがある。
ロシアにおいては、ゼネコンなどの大型案件は、モスクワで決められるのが普通である。このため、日系企業が参入するには、極東でジョイントベンチャーを組んだり、現地で資材調達に関ったりするなど限定的なものになる可能性が高いといえる。
輸出入については、東京・大阪・名古屋の3大都市圏からの輸送が多く、地元北陸地域の活用は十分とはいえない。その一方で新潟東港や伏木富山港では沖待ちが発生するなど、生産活動と輸送インフラとの不一致が目立っている。また、上海便が就航する富山・小松の両空港では、運行日が同じ日・火・木曜日となっていたなど、地域連携が取れていない問題がある。
北陸系企業は、もともとはコストダウンを目的にした企業進出が多く、今日の中国のコストアップ要因に対して十分な企業体力を備えているとはいえない。現地での労務管理も、不正経理防止のための監視などに心を砕かざるを得ず、日本流の経営感覚とのギャップに戸惑う例もあった。
最後に、今までの北東アジア進出における類型化と諸課題を踏まえて、北陸の企業が北東アジア進出を考える場合、以下の5点の課題や対応策を指摘しておく。
1点目は、類型1・2のように、コストダウン型企業は延辺地域など、その地理的範囲が奥地侵攻型に限られてきている。大連市などでも長江デルタ地域のような、経済のサービス化傾向が出てきたことで、東北地域内部の経済環境の地域分化が起きつつある。
2点目は、長江デルタ地域でも、上海の世界都市化による製造業立地の頭打ち(政策的対応も含む)によって、蘇州、無錫地域のほうが、立地環境が相対的に良くなる傾向が見られることから、この点を勘案した立地戦略が必要と考える。また、この地域には日系大手企業が多数立地しており、類型3が多く確認できるだけでなく、類型4も確認できることから、これらの産業集積を狙った進出も可能になっている。
3点目は、人件費や不動産価格高騰など「バブル経済化」している中では、これらを吸収できる高付加価値型経営が中国で再現できることが重要である。
4点目は、中国が求める産業・業種に対して、北陸系企業がマッチしなくなってきている。特に環境対応型企業の層が薄い。
5点目は、ロシア極東の人口は750万人という規模で、富裕層は5%(約3万人前後)に過ぎない点である。これが大手商社・企業の参入を阻んでいるともいえるが、このマーケットサイズを頭に入れたビジネスを考える必要がある。木材加工、DIY用品金型ビジネス、アルミサッシ、建設機械、環境・医療などにビジネスチャンスがあるが、そのためには、バイヤーをロシアから日本に呼ぶなど工夫が必要である。
これらの課題と対応策を効果的なものにするためには、行政と関係各機関が取り組むべき視点を3つ指摘しておく。
1点目は、中堅・中小企業は、JETRO、県事務所など各支援機関との連携を強化する必要がある。
2点目は、北陸地域の課題として、国際物流インフラの整備を進め、北陸系企業の輸送コスト削減と時間短縮、多頻度輸送を保障する取組みが必要である。
3点目は、北陸地域が連携して、連帯感を持って内外に地域情報を発信していく取組みも必要である。例えば、「越」ブランド(Etsu−「超越」の意味と北陸4県の旧称である「越前」、「越中」、「越後」から命名)の構築などが考えられる。
この北東アジアにおける経済発展と、そのエネルギーの取り込みによる北陸地域の活性化は、企業の個別的な活動だけで達成されるものではない。行政や関係各機関の活動と連携を通じて、より効果的に達成されることを確認しておく必要がある。
本報告は、(社)北陸建設弘済会が実施している「北陸地域の活性化に関する研究助成事業」のプロジェクト助成研究の一つである、プロジェクトI「北陸地域における北東アジアとの経済連携の調査研究」の平成19年度の活動成果を取りまとめたものである。
今回は、経済連携という視点から、北陸企業の北東アジア地域における進出状況やその課題等について、現地調査を交えながら調査研究を行った。その過程で、事業所・工場等の立地においては、当該地域における貨物の集荷・配送サービス水準が重要な評価基準となることが明らかとなるとともに、物流面における対岸地域と日本との連携は必ずしも十分なものではなく、インフラ施設の充実やサービスの改善を求める声が多数聞かれた。これを踏まえ、平成20年度は我が国と北東アジアとの物流戦略をテーマとし、引き続き調査研究を継続する予定である。