北陸地域における公共交通の課題と展望

公共交通が北陸の地域づくりを先導する。将来像や課題をしっかり見すえた、戦略的な交通ネットワークの形成が欠かせない。

川上 洋司(福井大学大学院工学研究科教授)

新幹線をチャンスとして協調・連携した北陸づくりを推進

地理的条件や現在の経済的結びつき等によって、北陸地域内の都市や地域の特性やポテンシャル(潜在能力、可能性)はそれぞれ異なっている。新幹線の開業はそのポテンシャルを刺激し、それぞれの都市や地域を活性化したり、住む人の生活の質を高めるという効果が期待できる。しかしその効果の度合は一律ではなく、また人口や機能が流出するといったマイナス効果が生まれるところも予想される。

新幹線がもたらすものは「バラ色の未来」ばかりではない。新幹線という基幹鉄道ネットワークが入ってくることに対して、北陸の都市なり地域なりが協調せずに競争のスタンスでバラバラに準備を行うならば、新幹線効果に地域間で格差が生まれ、光ばかりではなく影の部分が大きくなりかねない。

現在でも富山は通過駅になり、金沢への一極集中が強まるなどといった懸念も耳にするところだ。また福井と金沢、富山の関係の深さ、つながりが、北陸新幹線によって分断される、希薄になるという意見もある。

したがって各地域の強みや弱みをシミュレーションしつつ、それぞれが持つポテンシャルを新幹線によって最大限に顕在化(発揮)させるための地域づくり戦略が重要になる。

富山市は「コンパクトなまちづくり」をコンセプトにしつつ、地域交通の整備を進め都市圏全体を富山駅に直結させるという地域づくりをめざしている。富山駅を利用しやすくすることで都市圏全体の相対的な力を高めようという方向性だが、これも新幹線をにらんだ地域づくり戦略だといえるだろう。こうした地域戦略が重要になる。

さらに圏域としての戦略や各県の協調・連携による地域づくりも重要だ。例えば金沢を北陸圏の中枢都市として、富山は首都圏方面、福井は関西方面のそれぞれ「リエゾン」(仲介役、橋渡し)機能を発揮するといったように、これからは3県が役割分担・協調しながら連携していくことを考えていかなければならない。そうすれば、自ずと新幹線の活用方策にも違いが明らかになり、さらには新幹線を含めた公共交通のあり方や開業後の都市戦略や地域づくり戦略もより鮮明になってくる。

北陸新幹線の開業というのは、北陸地域にとってゴールではない。また東京との関係が密になるからといって、今の在来線が果たしている地域内鉄道サービスの水準が低下したのでは本末転倒と言わざるを得ない。20年後、30年後、50年後を視野に入れながら、関西や中部とのつながりを維持しつつ、さらに新幹線によって首都圏とダイレクトに結びつくことを活用していくといったように、北陸にとってプラスを積み上げる戦略や取り組みが求められている。

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