北陸地域は日本海沿いに都市が連なり、山側には中山間地が広がっている。その多くは高齢化や人口減少が進行している地域だが、こうした地域で路線バスが廃止される動きが多くなっている。運転免許をもたない、あるいは高齢で運転が難しくなってきた高齢者にとって路線バスは生活を支える交通サービスであり、場合によっては生命を守る存在でもある。
路線バスの廃止に伴って「福祉バス」や「コミュニティバス」という名称で、行政が生活交通を支持するケースが増えている。そして、今後さらに高齢化や過疎化の進行とともに行政が生活交通サービスを提供すべき地域はさらに増えていくことが予想されている。採算ベースには合わないから民間のバス会社が撤退した地域である。行政の財政負担は大きくなる一方であり、将来に向けてその解決策を考えていくことが必要だ。
北陸を含めて全国の事例を見てみると、例えば毎日運行するのではなく、週1回や隔日運行などのように、これまでのサービス水準を低下させ最低限のシビルミニマムを確保するといった動きが多いようだ。もちろん、そのサービス水準の決定には住民ニーズの確認と財源に対する説明、そしてサービス水準に対する合意を形成するといった取り組みが欠かせない。場合によっては、交通サービスに合わせて住民側の生活行動を変えてもらうということも必要になる。
中山間地の公共交通問題に関しては決定的な解決策というものはないのかもしれない。公共交通とは本来行政が行うサービスであり、民間が代行していたものが再び行政に戻ってきたという風に捉えるべきという意見もある。また経済合理性という視点では成り立たないが、国土保全や地域文化や景観の維持・継承といった視点を持ち込むことで、税金を投入することについて社会的に必要なコストとして地域の合意を得るという考え方もある。
一方で、課題解決に向けて、新潟県の長岡市(旧山古志村)のように、NPOが協力して地域住民・コミュニティによる自立的なバス運行を模索する動きも始まっている。バスの車両などの初期投資や5年間の運行に関する費用の多くは長岡市や新潟県が負担し、NPOは安全かつ安定的な運行を行うとともに、住民とともにバスを核とした事業開発を進め、5年後に自立的なバス経営を行う基盤を確立していこうというものだ。その仕組みや考え方は、先にあげた「えちぜん鉄道」に通じるものがある。
5年後にNPOから住民(組織)に運行が引き継がれることになっているが、その試みは間違いなく中山間地の生活交通問題のモデルあるいは事例となるものとして注目される。
北陸新幹線の開業に伴う圏域全体の交通ネットワークや他地域との結びつきのあり方、またそれぞれの都市や地域における地域づくりと一体となった交通体系のあり方・戦略、そして北陸地域にとって大きな課題である中山間地の生活交通面など。北陸地域の公共交通をめぐる課題は多岐に渡り、取り組むべき方向性も様々である。しかし、これからの北陸の地域づくりを考える時、これらの問題はいずれも避けては通れない課題でもある。北陸3県そして周辺地域との協調と連携、市町村間や民間交通事業者との連携、そして何より住民との連携を強化し、北陸の新たな地域づくりを進めていく必要があるだろう。