北陸地域における公共交通の課題と展望

公共交通が北陸の地域づくりを先導する。将来像や課題をしっかり見すえた、戦略的な交通ネットワークの形成が欠かせない。

川上 洋司(福井大学大学院工学研究科教授)

大量輸送性だけでない多様な役割・機能
公共交通を軸にしたまちづくりへ

次にそれぞれの都市や地域内において、骨格となる公共交通ネットワークについてみてみよう。

北陸地域は道路整備水準が高く、交通における自動車への依存度も高い。通勤・通学者のうちで自家用車のみを利用している比率(自動車依存率)では、富山県が72%で全国2位、福井県が70%で4位を占めている。道路整備率も全国有数の高い水準にあり、車による移動の面では非常に良好な環境にあるということだが、全国平均が44%なのに比べて70%を超えているというのはいささか行き過ぎているといわざるを得ない。

図2 通勤・通学者の自動車依存率(都道府県別ランキング)

順位 都道府県名 依存率(%)
1 山形県 72.4
2 富山県 72.0
3 群馬県 71.0
4 福井県 69.9
5 鳥取県 68.7
6 福島県 68.4
7 秋田県 68.3
8 長野県 67.8
9 宮崎県 67.6
10 栃木県 67.3
13 新潟県 65.6
17 石川県 64.6
47 東京都 11.6
全国平均 44.3

(北陸の県庁所在地の自動車依存率)

(%)

福井市 66.9
富山市 66.4
金沢市 56.5
新潟市 52.3

(平成12年国勢調査)

図3 北陸地域各県の道路整備率

( )内は全国順位(%)

一般国道 都道府県道 市町村道 合計
富山県 69.3 (7) 65.3 (8) 74.7 (1) 72.9 (1)
石川県 67.7 (5) 59.4 (10) 72.7 (3) 70.5 (3)
福井県 61.5 (13) 54.6 (18) 70.2 (4) 67.3 (5)
新潟県 54.9 (25) 57.0 (14) 58.8 (19) 58.4 (19)
全国平均 59.6 55.1 55.0 55.2

※平成18年4月1日現在(国土交通省「道路統計年報2007年版」)

車に過度に依存していることで、都市構造は低密度分散(都市機能が集中せず郊外等に分散する)になり、結果として従来の中心市街地が危機的状況に陥っている。また石油価格の上昇や高齢者人口がさらに増加するという社会現状をふまえると、自動車への過度な依存は「生活の質」を脅かすことになりかねない。

高齢者が安全かつ自由に移動できること。また中心市街地を活性化させながら都市機能をある程度集中させ、利用しやすいコンパクトなまちづくりを進めていくこと。こうした未来図を描く時、自動車に代わって公共交通を軸にした地域交通の再編が不可欠となる。

公共交通といえばこれまでは大量輸送性と誰もが乗れるという機能が重要とされてきた。それが現在では自動車利用に比べて環境負荷が小さいという点が注目されている。またバリアフリー化によって高齢者の移動・行動を支えるという福祉的な側面も新たな役割となりつつある。さらにはまちの景観を形づくるものとして、停留所施設や電車・バスの車両デザインの役割の重要性を指摘する声もある。

このように公共交通が本来的に持っている機能や役割を見直してみると、その機能や役割は以前よりも大きく、また拡がっている。社会変化を背景に、いわばポテンシャルが高まっているわけだが、北陸ではその力をうまく発揮させ、まちづくりに利用しようという動きが始まっている。

その代表的な例として富山市が進めている「公共交通を生かしたコンパクトなまちづくり」がある。これはLRTや路面電車、路線バスという公共交通を政策的に整備し、コンパクトな都市構造を誘導・実現し、さらには合併によって拡大した富山都市圏全体の競争力と活力を高めようというものだ。

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