北陸地域における公共交通の課題と展望

公共交通が北陸の地域づくりを先導する。将来像や課題をしっかり見すえた、戦略的な交通ネットワークの形成が欠かせない。

川上 洋司(福井大学大学院工学研究科教授)

交通ではなくまちづくりプロジェクト
LRTを軸にスタートした富山の挑戦

全国から注目を集めている富山市のLRT(ライト・レール・トランジット)は、JR西日本が運営していた鉄道路線を第3セクターである富山ライトレール株式会社に移管して、LRTとして再生を図ったプロジェクトである。富山駅北口から市内北部に向けての生活交通のサービス水準を高めることが第一義的なねらいだ。

「ポートラム」と名付けられた洗練されたデザインの超低床・2車両連結の車両、JR時代に比べて3倍近くに増えた運行本数、早朝・深夜便の設定など、移管前よりも確実に向上した利便性、サービス水準によって、開業195日で乗車人員が100万人を突破。開業初年度は(2006年度)は1日当たり4,901人、2007年度は4,480人の利用者を確保と、JR時代の1日当たり3,400人や目標とした4,000人を大きく上回る実績となっている。

事後評価では高齢者の利用が増加しており、LRTが高齢者の外出機会を増やし、生活行動を活発化しているという成果が報告されている。また、これまで通勤に自動車を利用していた人たちがLRTに乗り替えているというデータもあるようだ。

このように富山のLRTは市内の生活交通という点で大きな成果を生む成功プロジェクトだが、まちづくりという観点からも注目すべきプロジェクトといえる。

1点めはLRTに合わせて、岩瀬地区(終点地域)の観光地整備を進めていることがあげられる。岩瀬地区はかつては北前船によって賑わった港町で、廻船問屋のまちなみが残っている地域であり、LRTの開通に合わせて環境整備を進め観光地としての再生を図っている。

2点めとして「フィーダーバス(支線バス)」の試みがあげられる。LRTの駅を基点に機動性のあるバスを運行することで、交通空白地区を解消するとともに、中心市街地の渋滞緩和をも実現している。またフィーダーバスの発着駅周辺の生活拠点化という効果もある。

3点めはLRTを起点として、公共交通を整備しつつコンパクトなまちづくりを進めるためのロードマップ、連鎖するプロジェクトをきちんと持っていることだ。

富山市では今、以前に廃止された路線を復活させ、路面電車の環状化計画に取り組んでいる。路面電車を運行しているのは民間企業(富山地方鉄道)だが、復活する路線整備は富山市が行い運行は民間にまかせるという「公設民営」方式で進めている。これが実現すると市街地の利便性はさらに高まるが、さらに2014年に新幹線が開業し、富山駅が高架化した際には、北口のLRTと南口の路面電車のネットワークを結びつけようと考えている。さらに路面電車の延伸などを進めることで、LRTと路面電車による富山都市圏の骨格をなす交通システムを形成しようとしている。

この路線沿いに拠点を設けて、フィーダーバスのシステムを持ち込むことで富山都市圏の交通状況や生活行動は大きく変わる。それだけでなく、沿線の土地利用や種々の生活活動にも影響を及ぼすことは間違いのないところだ。LRTと路面電車という公共交通ネットワークを軸に、いわば富山市のまちを再編すること。LRTからスタートした富山市の地域づくりの試みは、全国の都市が注目すべきものといえる。

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