富山市がLRTを導入する直接的なきっかけになったのは、北陸新幹線の整備に伴う富山駅の高架化事業である。市は、利用者が減少して存続が危ぶまれている富山港線もそのコストをかけて高架化すべきか選択を迫られていた。1. 高架化する、2. 廃止してバスを運行させる、3. 路面電車として再生させる、の3案が比較検討された(図11)。
図11 代替案の便益検討
(試算期間:30年間/社会的割引率:4%)
(億円)
高架化 | 路面電車化 | バス代替※1 | |||
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便益 | 利用者に帰属する便益 | 所要時間短縮 | 57 | 90 | 0 |
移動費用低減 | 9 | 9 | 0 | ||
その他に帰属する便益 | 交通事故軽減 | 3 | 4 | 0 | |
CO2排出等削減 | 1 | 2 | 0 | ||
道路混雑緩和 | 119 | 201 | 0 | ||
計 | 189 | 306 | 0 | ||
費用 | 事業収支 | 0 | △3 | 22 | |
建設投資 | △60 | △45 | △2 | ||
設備更新 | 0 | △20 | △6 | ||
計 | △60 | △68 | 14 | ||
純利益(便益−費用)※2 | 115 | 224 |
※1 便益額の計算は、バス代替による便益と比較した場合の試算。そのため、バス代替による便益は0とされている。
※2 純便益は、バス代替と比較して試算されているため、以下のような計算式によって試算されている。
路面電車化:306−{68−(−14)}=224 高架化:189−{60−(−14)}=115
(出典:「富山港線路面電車化に関する検討報告書」富山港線路面電車化検討委員会)
費用に比して、社会的な便益(効果)が高いという点とともに、以前より富山市は公共交通を利用したまちづくりに積極的に取り組んでおり、社会的・経済的便益からも富山港線を路面電車化することを決断したわけである。
また、自動車への依存度が高い富山市では、同市の二酸化炭素排出量の約30%を自動車交通が占める。環境への意識が高まり、地球温暖化防止への対応が求められる中、LRTが「環境にやさしいのりもの」であることも大きな影響を与えた(図12)。
図12 富山市におけるCO2排出量の推移
平成2(1990)年 | 平成15(2003)年 | 増加率(%) | |||
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排出量 | 内訳(%) | 排出量 | 内訳(%) | 平成2年/平成15年 | |
産業部門 | 1,672.9 | 48.0 | 2,062.6 | 45.8 | 23.3 |
運輸部門 | 850.4 | 24.4 | 1,086.5 | 24.1 | 27.8 |
民生(家庭)部門 | 531.4 | 15.2 | 709.9 | 15.8 | 33.6 |
民生(業務)部門 | 432.9 | 12.4 | 642.9 | 14.3 | 48.5 |
合計 | 3,487.6 | 100.0 | 4,501.9 | 100.0 | 29.1 |
(出典:「富山市地域省エネルギービジョン」)
現在、富山市は、国土交通省が支援・推進する環境的に持続可能な交通(EST)モデル事業を展開。少子高齢化や地球温暖化防止への対応として、公共交通機関を軸とした街づくりを推進しており、この取り組みは他の都市のモデルとなっている。