中山間地域の地域づくり-過疎・自立・対策

「誇りの空洞化」で衰退する日本の農山村。格差是正と個性ある発展の二兎を追って、国内戦略地域として再生をめざすべきだ

小田切 徳美(明治大学農学部教授、農学博士)

時間とともに進行する空洞化
農山村を覆う重い現実

3つの空洞化についてもう少し詳しく見ると、農山村からの人口流出は、1980年代のおおむね後半ぐらいから、社会減少よりも自然減少の方が大きくなっている。つまり、生まれる人数よりも死ぬ人の数が上回ってしまったから、都市部へ出て行った人が戻ってきても人口は減り続ける。出産適齢期の女性など、若い世代が戻らない限り人口は減り続け、地域社会は先細っていくしかない。

土地の空洞化をめぐっては不在地主の問題が大きい。耕作放棄地は地域によって割合は異なるが、所によっては5割という高い比率の所もある。実は耕作放棄地というのはその多くは、その地域からいなくなってしまった不在地主の農地あるいは休耕地が、放置され荒れているというのが実態なのだ。放棄地は時間とともに雑草が繁殖し種を飛ばしたり、病害虫の温床となるなど、周囲に問題をもたらす。また土砂や倒木が流れ出すなど自然災害の要因ともなりかねない。

例えば耕作はしていないが地元に住んでいる、あるいは地元とのコンタクトがあれば貸すこともできる。また作物はつくらなくても、農地を荒らさないようにみんなで管理しようというという保全も可能となる。しかし世代交代などで、住所がわからず連絡も取れない不在地主が増えている。そうすると対応策が全く取れなくなる。耕作放棄地は地域全体に影響を及ぼす問題なのだ。

ムラの空洞化については、「限界集落」という言葉は適切ではないと思うが、集落機能が脆弱化しているというのは事実だ。場所によっては、地域の寄り合い自体が完全に消滅してしまっている集落もある。また輪番制でお祭りの責任者を務めるはずなのに、引き受けられる家がなく、特定の家が続けて引き受けるといったことも起こっている。集落機能の脆弱化というのはかなり奥深いところまで進んでいる、そういう実態がある。

時間とともに空洞化は進行し、もはや再生は不可能かと思われるほどに疲弊している。こうした重い現実が農山村を覆っているといっても過言ではない。

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