現実は厳しいが、日本の農山村の果たすべき役割は大きい。私は日本の農山村を「国内戦略地域」というふうな位置づけをすべきだと考えている。
農山村は、国家戦略上欠かせない4つの戦略物資に関わる地域だ。1つはもちろん食料。2つ目は水力、バイオマス等のエネルギー。3つ目は水。そして4つ目はCO2の吸収だ。
この4つは、エネルギー穀物価格の高騰や反落に見られるように、グローバルマネーが投機目的で参入するような、間違いなく21世紀における戦略物資。今後それぞれの国がこの戦略物資をどれだけ確保できるかというのは、国際的な投機や国際政治に左右されない国民生活を確保する上で非常に重要になる。日本ではそのいずれもが農山村地域を中心に供給されている。つまり農山村とは、国際的な戦略物資を国内で確保できる戦略地域という位置づけをするべきではないかと思う。
これまでも農山村は「多面的機能」を担っている、というような言葉で役割を表現されていた。しかし多面的機能という位置づけは抽象的だし、現実を示す言葉としてはあまりにも弱い。国民生活に直接かかわるような、世界と対峙する国家戦略を担うということを、明確にしておくべきだろう。
残念ながらこれまでは内閣によって、地方重視になったり都市重視になったりと、農山村の位置づけが変わっている。それ自体がおかしな話だし、それはまさに国民的合意ができていないことのあらわれだ。
例えばヨーロッパの各国では、都市は都市、農村は農村と区分されており、農村というのは心のふるさと、だから守らなくてはいけないという共通認識が形成されている。そのため、農山村に条件不利地域があるならば、その条件の悪さを国全体で埋めるのは当たり前だ、それがフェアな考え方だという国民的合意がある。
日本ではそうした国民的な合意がまだ形成されていない。日本は都市と農村が入れ子状態になっていて明確に分かれていない、政権によって位置づけが変わるといった原因だけでなく、それ以上に、都市住民が農業の多面的役割を実感的に理解していないことが大きな問題だ。
ここ数年、穀物価格が高騰し、食の安全性の問題が議論された。最近では雇用や第2の人生の観点から、国内農業への関心や重要性への認識が高まっている。こうした動きをとらえて、食育やグリーンツーリズムなどで継続化しつつ、さらに国内戦略地域としての役割への実感的理解を広げていく取り組みが必要だ。それによって農山村の位置づけに国民的合意がなされ、戦略地域化していくのではないか。それは誇りの再生にもつながるものだ。