中山間地域の地域づくり-過疎・自立・対策

「誇りの空洞化」で衰退する日本の農山村。格差是正と個性ある発展の二兎を追って、国内戦略地域として再生をめざすべきだ

小田切 徳美(明治大学農学部教授、農学博士)

農山村で始まっている新しい地域づくりの動き

ふるさと納税制度、グリーンツーリズム、二地域居住など、農山村の地域づくりをめぐって、新しい動きが始まっている。

ふるさと納税制度は都市、農村の税収格差を埋めることを目的とするものではない。わずか地方住民税の1割を寄附したからといって、どうにもなるものではない。寄付するということは、その地域に対して注目することであり、自分自身のいわばつながりを再確認するということだ。つまりふるさと納税は、都市と農村の共生につながる道の一つになる。それが意図なのだ。

志あるお金を都市から農山村に移転する。その志によって、地方に元気と自信と誇りをもたらす仕掛けがふるさと納税というわけである。そういう意味では、いくらだったかという金額よりも、国民の何割が、あるいは何パーセントが、恐らくはコンマ何パーセントかもしれないが、どのくらいの国民がふるさと納税を行ったのかという、志の量に注目したい。

都市と農村が交流し、それを通じて地域を再評価するという動きがいろいろな地域や場面で出てきている。ふるさと納税もその一つだが、それ以外にも、農産物を買うということやグリーンツーリズム、援農、森林ボランティアなど道は様々だ。いずれも都市部の人々が、無理のない関わり方で地域を支えるということであり、その交流は農山村が自信と誇りを取り戻すことにつながっている。今まさにそういう動きが始まり、活発になってきている。

都市と農山村の交流は、そういう人々が入ることによって、地域の資源を再評価できる点に大きな意味がある。交流の「鏡効果」と呼んでいるが、交流をする人間が、あたかも鏡を持ってその地域に入るように、その地域の魅力や課題を映し出す。そこを見すえることから農山村の地域づくりはスタートする。交流がもたらす経済効果などの直接効果よりも、いわば間接効果に意味がある。

その点で実は若い世代の動向に注目している。農山村へのUターンやIターン、二地域居住に関する各種の調査では、必ずといっていいほど2つの世代が高い関心や意向を示している。一つは団塊の世代、もう一つは若者世代だ。

この種の議論では団塊の世代が話題となる。確かに団塊の世代に、UターンやIターンという動きはある。しかし奥さんは残して、ご主人だけが単身Iターンするというケースも多い。奥さんは地元でコミュニティができているから、農山村には行けない。だからご主人だけがIターンするが、土日には奥さんの所に帰るという、まるで現役時代の単身赴任のような現象が起こっている。各地の話を聞くと、どうも団塊の世代のIターンは思ったより広がっていないというのが実情のようだ。

ページの先頭に戻る

北陸の視座バックナンバー