中山間地域の地域づくり-過疎・自立・対策

「誇りの空洞化」で衰退する日本の農山村。格差是正と個性ある発展の二兎を追って、国内戦略地域として再生をめざすべきだ

小田切 徳美(明治大学農学部教授、農学博士)

格差是正と内発的発展
両立させて二兎を追う

では具体的にこれからの農山村の振興策はどうあるべきか。この振興策をめぐっては2つの考え方がある。

1つは「格差是正」という考え方。中山間地域は生産条件不利、過疎地域は人口が減少して全般的な生産も生活も不利になっている。条件が不利で、生活交通や医療など様々な問題が起こりやすく、他の地域との格差が生まれる。それを是正・解消するために国全体でコストを負担して支援していくという考え方だ。過疎法の、事業費の70%までを国が地方交付税で肩代わりしてくれる「過疎対策事業債(過疎債)」はその代表的な制度だろう。インフラや公共施設の整備など、格差是正にこの制度が大きな役割を果たしてきたことは間違いない。

ところが2000年代に入って、格差是正の考え方はもう古い、格差是正というよりも個性あふれる展開だということで、「内発的発展」という考え方が浮上してきた。それぞれの地域の自助努力や競争を促し、地域資源を活用して生き残りを目指すべきだという考え方で、格差は容認され、残らない(残れない)地域がでてくることもやむを得ないとする。

しかし、格差是正の考え方は古い、新たな個性あふれる内発的発展の時代だという議論は、私には理解しがたい。例えば過疎地域の人口減少テンポは強まっているし、地域間格差も拡大している、特にそれが過疎地域を襲っている、そういう状況にある。そういう事実を踏まえると、格差是正は古い、あるいは、今の国政上の課題となっていないということは決してない。今必要なのは、格差是正と内発的発展をどう両立させるかではないか。

私は「二兎を追う」という言い方をする。その「二兎を追う」という考え方が、現在そしてこれからの農山村、さらに半島や離島を含めた条件不利地域の振興には重要だと考えている。

農水省に「中山間地域等直接支払制度」というものがある。日本型条件不利地域支払ということで2000年に実現したものだが、この制度に二兎を追う政策のイメージを見ることができる。

1975年から条件不利地域支払が導入されたヨーロッパでは、農場ごとに条件不利性を計測・試算し、それを補うためのコスト分を直接農場に支払う。これに対し日本の場合には、集落や営農グループが、地域や農業のためにこういうことをしたいという目標や計画を決めて協定を結ぶ。その協定に対してお金(交付金)が支払われる。その半分は最終的に個人に入る、つまり直接支払だ。

残りの半分は協定の主体が共同でプールする。プールをして地域に最も必要な形で使える。制度は5年単位なので、公民館建設や圃場整備を行うために5年間貯めることができる。もちろん単年度ごとに、祭りの神楽の衣装をつくったり、集落営農の機械を購入したり、そういうためにも使うこともできる。ある種の地域づくり基金の役割を果たしている。これはヨーロッパでは全く見られない手法で、日本オリジナルの制度だ。

半分は格差是正に使われる。平場で営農をする場合と中山間地域で営農する場合のコスト差をうめるような計算を行う。残りの半分は地域の実情に応じた個性的な発展ということに使われている。つまり二兎を追っている制度に他ならない。

格差是正と内発的発展というのは両立可能な課題だ。格差是正から内発的発展へ課題が移ったというふうな考え方は間違いであって、政策的にも十分両立し得る。中山間地域等直接支払制度はそのことを示している。

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